陰陽師としての力は、遺伝的なものが大きく、その力は気のように体中を流れている。
それを術式を混ぜることによって減少させ、陰陽師としての力を消していくというもの。
五感に影響を及ぼす術式は、その名の通り、人間の持つ、「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚」に影響を及ぼす術式だ。
人間は視覚や聴覚に頼ることが多い。陰陽師も例外ではない。
闘うには視覚も聴覚も必要だし、嗅覚や触覚を使って気配を辿ることもある。
どちらの呪いの術式も、掛けられれば陰陽師にとってはかなりの痛手になるものであった。
強力な呪いの力だ。当然、御影本人にも代償はあった。
しかし自分の寿命を削りながらも、御影の元当主は呪いの術式によって有力な陰陽師の家系を潰していったのだ。
黒稜が物心付く頃には、父はすっかり衰弱しきっていたし、母も亡くなっていた。
御影家が生み出した呪いのことを、黒稜が知る由もなかった。
しかし、その御影が生み出してしまった呪いの術式は、日の当たらないところで売買されており、雪平もそれを手に入れるに至ったのだった。
雪平の話を聴き終えた桜と黒稜は、愕然とした。
「御影が、桜の自由を奪ってしまった……?」
小さく呟く黒稜は、苦しそうな表情を浮かべていた。
「そしてその呪いを北白河 桜、お前にかけたのは私だ」
「え……?」
驚く桜と黒稜に、雪平は平然と言う。その顔が更に醜く歪んでいく。
「どう、して……」
「正確には私が呪いをかけたのは、道元の妻、文江だ。道元の大切な者から消してやろうと思っていたからなぁ!しかしあいつは陰陽師の力をもともと持っていなかった。何故だか全く呪いが発動しなかったのだ。いやはやしかし、呪いをかけておいてよかった。それが娘のお前に効力を及ぼしたのだから!道元はさぞ長女のお前に入れ込んでいただろう?鼻をへし折ってやれて最高の気分だったよ!!」
文江にかけたはずの呪いは、不運なことにお腹の中にいた桜にだけ掛かってしまった。
桜は呆然とするしかなかった。
自分の未来を奪った人間が、今目の前にいる。
(私に掛かった呪いは、あやかしが掛けたものじゃなかったんだ…。人に故意的に掛けられたものだったんだ……)
同じ陰陽師同士だというのに、呪いを掛け合うなんて、まさかそんなことがあるとは、桜には思いもよらないことだった。
「やはり、この強大な術式は私にはなかなか手に負えんようでな。聴覚にしか影響を与えられなかったようだが、陰陽師の力は奪えたようだし、まぁ大方成功と言ったところか」
雪平の術式が完璧であったら、桜は陰陽師の力を失うだけでなく、五感さえも奪われていたのかもしれなかった。
考えるだけで、背筋がぞっとした。
「はぁ…しかし、今度こそ完璧に呪いは完成したぁ…」
途端に雪平がふらふらとし出して、何だか苦しそうな様子を見せた。
「こいつの、力を借りてなぁ……!!」