桜と黒稜は言葉を失う。
「それは、どういう意味…?」
桜の小さな呟きに、雪平は饒舌に話し続ける。
「御影 黒稜。お前は何故陰陽師として有名な家系の生まれである北白河の娘が、陰陽師の力も失い、聴力をも失ったのか、疑問に思わなかったのか?」
黒稜は桜を守るように抱え、引き寄せる。
黒稜は桜を妻に迎えた日、耳が聴こえないことを確認していながら、その理由について深く聴くことはなかった。
北白河という陰陽師としても有名な家系の生まれだというのに、桜が陰陽師としての力が使えないことも会ってすぐに分かっていた。
しかし、それが黒稜と何の関係があると言うのか。
「呪いのせいだよ」
そう、呪いだ。
桜も退けたあやかしから受けた呪いだと思い込んでいた。
(あの時傷を負って、その時に呪いをかけられたのではないの?強力なあやかしは、呪いの力も持っているから…)
「それは、あやかしの、せいで…」
桜の言葉に、雪平は被せるようにして叫んだ。
「御影が作った呪いなんだよ!!」
「え……?」
桜の隣で、黒稜も驚いたように目を見開いていた。
「御影 黒稜、お前の父親が作り出した呪いだ」
雪平の話しによると、桜の父親である道元達の世代は、陰陽師同士の争いが絶えなかった。
昔から活躍し注目されていた陰陽師達であったが、陰陽師の力が認められ、勲章や報酬がそれなりの好待遇になったのは、道元達の世代からだった。
それ故、陰陽師同士の争いも絶えなかったのだ。
誰もが帝に認められたいが故強い力を欲し、邪魔な同業者がいればそれを排除することも厭わなかったという。
そこで陰陽師らしからぬ、強大な黒い力を手にしてしまったのが御影家だった。
黒稜の父は、陰陽師としてそれほど秀でた力はなかった。真面目にこつこつとあやかし退治を生業としていたが、そんなことでは帝のお抱え陰陽師として名を上げるのは難しい。
そこで他の陰陽師達を蹴落とそうと考えたのだ。
何か、他の奴らが陰陽師として生きていけなくなるような、そんな何かはないか。
現在の御影家に蔵書が山ほどあるのは、そんな黒稜の父の研究の成果なのかもしれない。
そうして御影が作り上げたのが、「陰陽師としての力を奪う術」、「五感に影響を及ぼす術」、という二つの強力な呪いの術式だった。