桜の父である、北白河 道元は、帝にも認められるほどの大きな力を持った陰陽師である。
 桜が陰陽師の家系の集まりに参加した時、小耳に挟んだことがあった。
 道元が雪平を出し抜いて、帝に近付いた、と。
 その時の桜はまだ幼く、お父様がそんなことするはずがない、と信じて疑わなかったのだが、今となっては噂は本当だったのではないかと思う程、道元は力や権力、地位に貪欲だと思われた。
 力を失った桜を平然と家から追い出したのだから。

 雪平は桜を睨み付ける。

「お前の父親がぁ!!我が家名を侮辱したのだ!!おかげで帝からの信用は失い、陰陽師として格式高かったはずの雪平の名は地に落ちた!!貴様を地獄に送り、次はその妹、そして嫁の文江、その後が道元だ!!!」

 叫ぶ雪平を見た桜は、そこでようやく思い出した。

(この人、この前箱根でぶつかった人だわ…!)

 桜とぶつかって、酷く驚いたような表情をしていた男性。
 その時の桜は、言葉が通じなかったと思っただけだったけれど、きっと雪平は、桜の顔を見て道元の娘だと分かったのだろう。もしかしたら幼い頃に会ったことがあったのかもしれない。

 そうして今日、桜を亡き者にするためやって来たのだろうが、どうして御影の家にいると分かったのだろうか。

「噂は本当だったのだな」
 雪平は桜を指し示した。

「お前、噂になっているぞ」
「え?」
「あやかし屋敷の御影に、売り飛ばされたとな!!」

 確かに御影の家は、いつからかあやかし屋敷だと噂され、敬遠されていた。
 どこからそんな噂が立ったのか分からないが、実際はあやかしなどまったくいない。黒稜が使役しているわけでもない。
 黒稜がうんざりしたように口を開いた。

『陰陽師の力を使って人を攻撃することは、帝の取り決めにより禁止されているはずだ。その禁を破ってまで桜に攻撃したこと、後悔する準備は出来ているのか?』

 黒稜の低く、冷たい声に怯むことなく、雪平はまた笑う。

「御影ぇ、お前も何を恰好付けている?お前も私と同罪であろう!!」
『なんだと?』

 雪平の言葉に、黒稜はまた眉を顰める。

「北白河の娘が、何故陰陽師の力を失い、何故聴力を奪われたのか、まだ分からないのか?」

 続けられた雪平の言葉に、桜と黒稜は絶句した。

「それは御影 黒稜!!お前がやったことだというのに!!」