「黒稜様っ…!!」
『桜、無事か』

 桜を守るように黒稜が男性との間に割って入っており、いとも容易く札を退けていた。

『結界が破られた気配があったのでな。急いで戻ってみれば…』
 黒稜は目の前の男性へと顔を向ける。

『誰だ?貴様は』
 黒稜は男性を睨みつける。
 男性は下唇を噛み、焦った様子を見せていた。

「ちっ…。御影 黒稜。お前のせいで、北白河の娘をやり損ねたっ…!」
『なんだと…?』
 男性は攻撃を止める姿勢を見せず、次々に力を込めた札を投げつけてくる。
 黒稜は右手を掲げ、それだけで札を退けていた。

「御影、何故北白河の娘を庇う?」
 男性が苛立ったように黒稜に問う。

『何故、だと?』
 男性の言葉を、黒稜も嘲笑うように返した。

『この娘は私の妻となった女だ。妻を守るのは当然のことだろう』
 その言葉を黒稜の背中を見つめながら聴いていた桜は、胸元でぎゅっと手を握った。

(黒稜、様…)

 冷静に返した黒稜とは反対に、男性は目を見開いて、可笑しくてたまらないとでも言うかのように大声で笑い出す。

「妻?妻だと!?ははは!!これは傑作だ!!!」

 何がそんなに可笑しいのか、男性は笑い続ける。
 黒稜が眉を顰めた。

『貴様、その札の紋様、雪平(ゆきひら)の者か』

 黒稜の言葉に、雪平と呼ばれた男性はまた大きく口を開けて笑った。

「そうだ!私の名は雪平 勝喜(かつのぶ)。お前もこの名を耳にしたことくらいあるだろう?」

 雪平家。
 桜も聴いたことのある名だった。

(たしか北白河家と同じように祓いの陰陽師の家系で、お父様とライバル関係にあった家系…)

「北白河 道元!お前の父親に人生を狂わされたんだよ!!」