着替えて部屋に戻った桜は、おぼつかない足取りで黒稜の横に座った。

「お風呂、お先に、いただきました……」
 やはり少しのぼせてしまったようで、桜の頭がぐらぐらと揺れる。

『おい、大丈夫か?』
 それを見た黒稜が心配そうに桜に声を掛けてくる。

「は、い。少し、のぼせてしまったようで…」
 桜はそこまで言葉を紡いで、そのまま黒稜の胸に身を預けた。

(だめよ…このままでは黒稜様に迷惑を掛けてしまう…)

 そうは思っているのに、どうにも頭が上手く回らない。
 暑さと眩暈で、桜は意識を失った。
『桜』
 遠くで黒稜が呼ぶ声が聴こえたような気がした。


『お姉ちゃん、気を付けた方がいいよ』

 柔らかな小さな女の子のような声が桜の耳に届く。
 気配から、すぐにあやかしの声だと分かった。

 悪さをするようなものではない。桜はそう瞬時に理解する。

(気を付ける?何を??)

 桜の疑問に答えることなく、少女が部屋をぱたぱたと出て行く気配がした。