茜色に染まる世界で最初に立ちあがったのは、夕日を背にそびえ立つ巨大な観覧車だった。
「遊園地?」
つぶやいた瞬間に世界が生まれた。
轟音を立てながら三回転するローラーコースター、オルガンの音とともに回りつづけるメリーゴーランド。コーヒーカップが回り、空中ブランコも回る。どこもかしこも回ってばかりだ。最初に生まれた巨大な観覧車だってもちろん、止まっているかのような顔をしながら高台の上で回っている。
いくつものアトラクションが、まるで最初からそこにあったかのようにして生まれでた。ローラーコースターのレールが、夕日に照らされて長い影を落としている。アトラクションはみな、チカリチカリと点滅する電飾に彩られていた。
アトラクションだけじゃない。絶叫マシンに悲鳴をあげる子供たち、そして園内を行きかう家族連れや恋人たちも後を追うようにして生まれた。
「なんでアタシ、遊園地に?」
周囲を見まわしたけれど、もちろん知ってる人なんて誰も居なかった。道ゆく人たちが珍しいもでも見るかのように、大通りの真ん中に突っ立っているアタシをに丸く見開いた目を向けながらすれ違っていく。
何だろう。変な格好でもしてるのだろうか……そう思って着衣を確かめると、なんとアタシ、素っ裸だった!
いやいやいやいや!
待って! ちょっと待って!
ないわ! これはない!
あわてて隠すところを隠して……って言うか、どこをどう隠せばいいか解らないまま、建物と建物の間の裏路地へと駆けこんだ。
「ゆ、夢だよね。これ、夢だよね。解ってるんだからね! 最初からおかしいと思ってたもん! 夢だよこれ! 夢! 絶対に夢!!」
自分に言い聞かせるように叫んだ。ふと思いついて頬をつねってみる……痛くない。ほら、やっぱり夢じゃん。
夢だと判れば、恐れることなんて何もない。好き放題やってしまったって、問題はないだろう……とは言うものの、それでも素っ裸で歩き回るのは恥ずかしい。夢の中とはいえ、裸で公衆の面前を歩き回れるほど大胆ではないし、裸を見られて興奮するほどの変態性なんて持ち合わせちゃいない。
逃げ込んだ裏路地には夕日も届かず、奥に行くほどに闇が深くなっている。もう少し奥に行って、人目につかない所でゆっくりと考えよう。そう思っておもむろに立ち上がった瞬間だった。
おしりを触られた。
悪寒を感じてとっさに振りむく。
「ふぁ!?」
思わず変な声が出てしまった。
パンダだ。体長二メートルほどもある大きなパンダが、二本足で立っいた。そして片手で、アタシのお尻を触っている。
「よっ!」
そう言ってパンダは、お尻と反対の手を軽く挙げた。
「あ、どうも……」
思わずペコリと頭を下げる。いや待て、のんきに挨拶してる場合じゃないだろ!
「パ、パンダがしゃべった!」
驚きに、思わず二メートルほど後ずさる。
「ア、アンタ、何でしゃべって……てか、なに、なんでパンダ……てか……」
「まぁ、落ち着けよ」
パンダがとぼけた声をあげながら、掌の匂いを嗅いでいる。アタシのおしりを触った手だ。最低パンダだ……コイツ。
「何でいきなりケツ触ってんのよ! このド変態!!」
パンダを指さして抗議した。もうこの際、パンダだろうが何だろうがどうでもいい。おしりを触ったことが許せない!
「……どうでもいいけど、丸見えだお」
パンダがアタシを差しかえす。
しまった! アタシ素っ裸だったんだ! 胸を隠しながらその場にしゃがみ込む。
「まぁ、ガキの胸ペッタン見ても、嬉しくないけ……グハッ!」
言い終わるよりも先に叩き込んでやった。パンダのみぞおちに、アタシの拳を。
「良いパンチ……持って……やがるぜ……」
うめき声をもらしながら、パンダがその場に崩れおちた。
拳をかかげて勝利のポーズ……って駄目だ、アタシ裸だった。
「面倒くさいからさ、服着てくんない?」
背後から、パンダの声がした。足元に倒れているはずの姿はすでに無く、いつの間にか背後に立っている。しかもコイツまた、アタシのおしりを触っている。
「この、変態パンダ!」
再びみぞおちへ叩き込んだはずのアタシの拳は空を切り、体勢を崩してしまいつんのめる。顔から地面に突っ込む寸前、パンダがアタシの体を支えてくれた。
「助けてくれたことにはお礼を言うけど……どこ触ってんのよ、この変態パンダ!」
体を支えるパンダの大きな手が、ちょうどアタシの胸に当たっていた。
「ごめん、ごめん。てっきり背中かと思っ……イテッ!」
思いっきり噛みついてやった。パンダの腕に。
「だから、早く服着ろって……」
アタシを助け起こしたパンダが、呆れた声をあげる。
「だって服無いんだもん……」
「無くったって、着ようと思えば着られるお?」
「あ、そうか。ここって、ゆ……」
夢の中だもんねと言おうとした。
でも、言い終わる前にパンダのバカでかい手の平が、ものすごい勢いでアタシの顔面を張り倒していた。頭がモゲるかと思った。裏路地から大通りへ三メートルほど吹っ飛んだアタシは、地面に叩きつけられるとそのまま十メートルほど転がって、メリーゴーランドのフェンスに激突して止まった。
「遊園地?」
つぶやいた瞬間に世界が生まれた。
轟音を立てながら三回転するローラーコースター、オルガンの音とともに回りつづけるメリーゴーランド。コーヒーカップが回り、空中ブランコも回る。どこもかしこも回ってばかりだ。最初に生まれた巨大な観覧車だってもちろん、止まっているかのような顔をしながら高台の上で回っている。
いくつものアトラクションが、まるで最初からそこにあったかのようにして生まれでた。ローラーコースターのレールが、夕日に照らされて長い影を落としている。アトラクションはみな、チカリチカリと点滅する電飾に彩られていた。
アトラクションだけじゃない。絶叫マシンに悲鳴をあげる子供たち、そして園内を行きかう家族連れや恋人たちも後を追うようにして生まれた。
「なんでアタシ、遊園地に?」
周囲を見まわしたけれど、もちろん知ってる人なんて誰も居なかった。道ゆく人たちが珍しいもでも見るかのように、大通りの真ん中に突っ立っているアタシをに丸く見開いた目を向けながらすれ違っていく。
何だろう。変な格好でもしてるのだろうか……そう思って着衣を確かめると、なんとアタシ、素っ裸だった!
いやいやいやいや!
待って! ちょっと待って!
ないわ! これはない!
あわてて隠すところを隠して……って言うか、どこをどう隠せばいいか解らないまま、建物と建物の間の裏路地へと駆けこんだ。
「ゆ、夢だよね。これ、夢だよね。解ってるんだからね! 最初からおかしいと思ってたもん! 夢だよこれ! 夢! 絶対に夢!!」
自分に言い聞かせるように叫んだ。ふと思いついて頬をつねってみる……痛くない。ほら、やっぱり夢じゃん。
夢だと判れば、恐れることなんて何もない。好き放題やってしまったって、問題はないだろう……とは言うものの、それでも素っ裸で歩き回るのは恥ずかしい。夢の中とはいえ、裸で公衆の面前を歩き回れるほど大胆ではないし、裸を見られて興奮するほどの変態性なんて持ち合わせちゃいない。
逃げ込んだ裏路地には夕日も届かず、奥に行くほどに闇が深くなっている。もう少し奥に行って、人目につかない所でゆっくりと考えよう。そう思っておもむろに立ち上がった瞬間だった。
おしりを触られた。
悪寒を感じてとっさに振りむく。
「ふぁ!?」
思わず変な声が出てしまった。
パンダだ。体長二メートルほどもある大きなパンダが、二本足で立っいた。そして片手で、アタシのお尻を触っている。
「よっ!」
そう言ってパンダは、お尻と反対の手を軽く挙げた。
「あ、どうも……」
思わずペコリと頭を下げる。いや待て、のんきに挨拶してる場合じゃないだろ!
「パ、パンダがしゃべった!」
驚きに、思わず二メートルほど後ずさる。
「ア、アンタ、何でしゃべって……てか、なに、なんでパンダ……てか……」
「まぁ、落ち着けよ」
パンダがとぼけた声をあげながら、掌の匂いを嗅いでいる。アタシのおしりを触った手だ。最低パンダだ……コイツ。
「何でいきなりケツ触ってんのよ! このド変態!!」
パンダを指さして抗議した。もうこの際、パンダだろうが何だろうがどうでもいい。おしりを触ったことが許せない!
「……どうでもいいけど、丸見えだお」
パンダがアタシを差しかえす。
しまった! アタシ素っ裸だったんだ! 胸を隠しながらその場にしゃがみ込む。
「まぁ、ガキの胸ペッタン見ても、嬉しくないけ……グハッ!」
言い終わるよりも先に叩き込んでやった。パンダのみぞおちに、アタシの拳を。
「良いパンチ……持って……やがるぜ……」
うめき声をもらしながら、パンダがその場に崩れおちた。
拳をかかげて勝利のポーズ……って駄目だ、アタシ裸だった。
「面倒くさいからさ、服着てくんない?」
背後から、パンダの声がした。足元に倒れているはずの姿はすでに無く、いつの間にか背後に立っている。しかもコイツまた、アタシのおしりを触っている。
「この、変態パンダ!」
再びみぞおちへ叩き込んだはずのアタシの拳は空を切り、体勢を崩してしまいつんのめる。顔から地面に突っ込む寸前、パンダがアタシの体を支えてくれた。
「助けてくれたことにはお礼を言うけど……どこ触ってんのよ、この変態パンダ!」
体を支えるパンダの大きな手が、ちょうどアタシの胸に当たっていた。
「ごめん、ごめん。てっきり背中かと思っ……イテッ!」
思いっきり噛みついてやった。パンダの腕に。
「だから、早く服着ろって……」
アタシを助け起こしたパンダが、呆れた声をあげる。
「だって服無いんだもん……」
「無くったって、着ようと思えば着られるお?」
「あ、そうか。ここって、ゆ……」
夢の中だもんねと言おうとした。
でも、言い終わる前にパンダのバカでかい手の平が、ものすごい勢いでアタシの顔面を張り倒していた。頭がモゲるかと思った。裏路地から大通りへ三メートルほど吹っ飛んだアタシは、地面に叩きつけられるとそのまま十メートルほど転がって、メリーゴーランドのフェンスに激突して止まった。