ふ、と目を開ける。
身体が内側から溶けていくように、涙がまた一筋、頬を伝って落ちた。
いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。最近は悪夢を見るのが怖くて、あまり眠れていなかったからだろうか。

夢を見ていた。
どんな夢かは、よく覚えていない。
でも、無理矢理思い出そうとはしなかった。暖かくて、優しい夢だった。それだけは、漠然と分かっていたから。
「あなたに向けて物語を書いてる、か」
私の口から言葉が零れた。はて、誰の言葉だろうか。
ふと、小説を読みたくなった。
誰の、という訳じゃない。ただ、夢に出てきたあの人の物語は、きっと暖かくて優しいものだ。
私に見せてくれた夢が、そうだったように。
窓の外を見ると、やけに透き通った青空が目に沁みた。あの日から怖くてたまらなかったそれが、何だか少しだけ綺麗に見えた。