一時限目の始業式のあと、二時限目はホームルームの時間となっている。二学期の席替えと、係決め、十月初めの日曜日に行われる体育祭の担当決め会議が始まった。

先ほど決まった新しい学級委員が前に出て、体育祭の担当係を黒板に書き並べている。実行係四名、設営係四名、巡回係四名、受付係二名、パネル係二名、ダンス係二名、救護係二名。七つの役割を、クラスの半分の二十名で割り当てていく。

「では、これから体育祭の係を決めていきますが、まずは実行係四名を決めます。実行係の希望者、いますか?」

学級委員の安藤くんが問いかけると、勢いよく男女二人ずつ、四人が「はーい!」と言いながら手を挙げた。サッカー部の橋本くん、野球部の中川くん、バレーボール部の根本さん、バスケットボール部マネージャーの渡辺さんだった。事前に申し合わせていたのだろう。クラスの中心的存在の、ヒエラルキーの最上位に君臨する陽キャな人たち。橋本くんと渡辺さんは付き合っていると噂されているし、その橋本くんと仲の良い中川くん、渡辺さんと仲の良い根本さんが一緒に実行係になるのも、想定の範囲内だ。先ほど学級委員に指名されたもう一人、佐藤さんが黒板に橋本、中川、根本、渡辺、と書き出す。

「はい、じゃあ実行係はその四人でお願いします。ここからの進行も、お願いします」と言って、安藤くんと佐藤さんは席に着き、代わりに四人が前に出た。

落ち着いた雰囲気の安藤くんと佐藤さんが、このまま係決めを続けてくれたらいいのに、と思ったけれど、そんな私の願いは叶わず、四人の陽キャ集団が、教室の空気を乗っ取った。

「はい、じゃあ、残りのメンバーを決めていきます!これやりたいっていう人、いますかー?」

バレーボール部の根本さんが、大きな声でみんなに問いかけた。

私は根本さんのような人が苦手だった。ボーイッシュな髪形で、背が高くて、サバサバしています、みたいな雰囲気を醸し出しているのに、全然そんなことはなくて、何というか、ものすごく≪女子≫なのだ。例えば、対象となる人が教室からいなくなった瞬間に、『あいつうざくない?まじ、調子乗りすぎだし』とか、みんなに聞こえるように悪口を言って、周囲の女子たちが『まあまあ』と言って笑ってなだめている姿を、一学期から何度も何度も目にした。

私のことを言われているのだろうか。いや、そんなことはしていないし、などと、毎回びくびくしてしまう自分がいる。別に、何かいじめられたりしたわけでもないし、実害があったわけではないけれど、その大きな声や態度が怖くて、極力接触を避けて過ごしている。特に体育の授業の時なんかは、彼女の言うことは絶対で、陰キャな私にとっては、ほんとうに怖いのだ。

「あ、相馬さんはパネル係でいいよね?」

黒板の端っこの方をぼーっと眺めていると、その怖い根本さんから声をかけられた。

「はえ?」

思わず変な声が漏れた。

「パネル係。相馬さん、美術部じゃなかったっけ?」

びっくりした。根本さん、私の部活、知っていたんだ。

「あ、うん」

美術部だよ、という意味で頷いたのを、根本さんはパネル係になることを承諾したと捉えたのだろう。

「じゃあ、決まりで。ほか、どの係でも、やりたい人いますかー?」

私は強制的にパネル係になった。そのあとのことは、もう、どうでもいいやと思い、私はまた俯いて、いつもどおり気配を消した。