昼過ぎのK県Y市の気温は三十六度で、歩くだけで汗が噴き出るほど蒸し暑かった。
 
総合体育館の玄関扉に足を踏み入れると、冷房の涼しさに包まれて、思わず深呼吸する。汗が引いたのもつかの間、体育館に入った瞬間、たくさんの人の熱気が立ち込めていて、酔いそうになった。
 
観客席にはたくさんの横断幕がかけられていて、学校関係者の人たちがそれぞれの区画の席を陣取っている。
 
私は周囲に人がない、隅の方の椅子に座り、開始時間を待っていた。

≪これより、男子フライ級、準決勝第一試合を行います。赤コーナー、高橋くん、N県東高校。青コーナー、坂本くん、O県中央工業高校≫

地元の女子高生のアナウンスを受け、赤いタンクトップとズボン、両手に赤のグローブを身に纏った理玖くんがロープをくぐり、リングに上がった。付き添いの人に赤いヘッドギアをつけられて、理玖くんは両手をパンパン、と二回打ち、その場で軽く飛び跳ねている。

レフェリーが理玖くんと、相手の選手に近づき、何やら説明をしている。リング上の二人は、うんうんと頷いて、それから両手をこつんと合わせて試合前の挨拶をした。

頑張れ、理玖。

私は胸の前で組んだ両手に、グッと力を込める。

カーン。

試合開始のゴングが鳴り、会場がワァァという歓声と熱気に包まれた。

Fin.