「起立、礼」「「「ありがとうございました」」」
四時限目、二学期最後のホームルームが終わり、学級委員の佐藤さんの号令で挨拶をする。
三学期の学級委員が継続でない限り、佐藤さんの号令を聞くのもこれで最後か。
冬休みに突入したばかりの騒がしい教室で、私は呑気に考えていた。
「早紀、お疲れ!私、今日これから料理部だから、またね」
文香はスクールバッグを肩に掛け、これから調理室に移動する様子だ。
「あ、うん、またね。クリスマス、楽しみにしてるから!」
私がそう言うと、文香は「うん、よろしくー」と手を挙げて、急いで教室から出て行った。
明後日、料理部が企画するクリスマスパーティーに参加する予定がある。楽しいイベントの前に、私は一つ、どうしても片付けておきたいことがあった。
「……田代くん、今いい?」
私は窓際の前から二番目の席に座っている田代くんに声をかけた。田代くんは私を見るなりギョッとして、「え、あ、な、何?」とあからさまに挙動不審な態度で答えた。今日も全然目が合わない。
私は「ごめん、脅かしているつもりはなくて」とできる限り優しい口調で言った。
「あのさ。前、みんなの前で、ひどいこと言って、怒鳴ってごめんね」
私は座ったままの田代くんに、立ったまま頭を下げた。
謝ったって、一度口にした彼を深く傷つける言葉は取り消すことはできないとわかっていたけど、それでも謝りたかった。許しを乞うているわけじゃない。そもそも、許されるとも思っていない。謝った側がすっきりしたい、ただの自己満足なのかもしれない。だけど、私は、傷つけてしまったことを忘れないために、謝りたいと思った。もう二度と、他の誰かに同じ過ちを繰り返すことのないように。
私が頭を下げて謝ると、田代くんは椅子から立ち上がって「いや、あの、全然、そんな」と両手を思いっきり左右に振った。
「俺のほうこそ、すごい、失礼なことを言って、ごめん……」
「うん……」
「……」
「……」
私たちは向かい合い、しばらく無言で立ち尽くした。
帰らなきゃ。待たせている人がいる。
「……じゃあ、また。よいお年を」
「あ、うん、また」
私は自分の席に戻り、机の横に掛けている鞄を手に取って、教室を後にした。
昇降口付近の私の絵の前に、大好きな背中が見える。
「お疲れさま」
私が声をかけると、彼は振り返り、いつものように目尻をクシャッとさせた。
昇降口は全ての学年の生徒でごった返していたけど、他の誰の目も気にならなかった。
「帰りますか」
「うん」
私は歩道側を、彼は車道側で自転車を押しながら、駅までの道を二人並んで歩いて帰った。
四時限目、二学期最後のホームルームが終わり、学級委員の佐藤さんの号令で挨拶をする。
三学期の学級委員が継続でない限り、佐藤さんの号令を聞くのもこれで最後か。
冬休みに突入したばかりの騒がしい教室で、私は呑気に考えていた。
「早紀、お疲れ!私、今日これから料理部だから、またね」
文香はスクールバッグを肩に掛け、これから調理室に移動する様子だ。
「あ、うん、またね。クリスマス、楽しみにしてるから!」
私がそう言うと、文香は「うん、よろしくー」と手を挙げて、急いで教室から出て行った。
明後日、料理部が企画するクリスマスパーティーに参加する予定がある。楽しいイベントの前に、私は一つ、どうしても片付けておきたいことがあった。
「……田代くん、今いい?」
私は窓際の前から二番目の席に座っている田代くんに声をかけた。田代くんは私を見るなりギョッとして、「え、あ、な、何?」とあからさまに挙動不審な態度で答えた。今日も全然目が合わない。
私は「ごめん、脅かしているつもりはなくて」とできる限り優しい口調で言った。
「あのさ。前、みんなの前で、ひどいこと言って、怒鳴ってごめんね」
私は座ったままの田代くんに、立ったまま頭を下げた。
謝ったって、一度口にした彼を深く傷つける言葉は取り消すことはできないとわかっていたけど、それでも謝りたかった。許しを乞うているわけじゃない。そもそも、許されるとも思っていない。謝った側がすっきりしたい、ただの自己満足なのかもしれない。だけど、私は、傷つけてしまったことを忘れないために、謝りたいと思った。もう二度と、他の誰かに同じ過ちを繰り返すことのないように。
私が頭を下げて謝ると、田代くんは椅子から立ち上がって「いや、あの、全然、そんな」と両手を思いっきり左右に振った。
「俺のほうこそ、すごい、失礼なことを言って、ごめん……」
「うん……」
「……」
「……」
私たちは向かい合い、しばらく無言で立ち尽くした。
帰らなきゃ。待たせている人がいる。
「……じゃあ、また。よいお年を」
「あ、うん、また」
私は自分の席に戻り、机の横に掛けている鞄を手に取って、教室を後にした。
昇降口付近の私の絵の前に、大好きな背中が見える。
「お疲れさま」
私が声をかけると、彼は振り返り、いつものように目尻をクシャッとさせた。
昇降口は全ての学年の生徒でごった返していたけど、他の誰の目も気にならなかった。
「帰りますか」
「うん」
私は歩道側を、彼は車道側で自転車を押しながら、駅までの道を二人並んで歩いて帰った。