私たちはしばらくの間、静かに絵を眺めていた。
実際の時間は、ほんの数十秒か、数分か、わからないけど、そんなに経っていないと思う。だけど、ずっと長い時間一緒に絵を見ていたような、そんな感覚がする。
心地よい沈黙を切り裂くように、背後から女子生徒が二人、「え、それやばくない?」「やばいよね?」などと言って笑い合う声が聞こえた。
私は慌てて高橋くんの背中から手を離して、少し左にずれて距離を取った。
恥ずかしくて俯いていたら、背後の声がどんどん大きくなってきて、「できれば写真は買いたい」「それはマストでしょ」と言って笑いながら、二人で靴箱の方に吸い込まれるようにして消えていった。
「あ!」
静けさが戻った高橋くんが私の方を見た。
「写真で思い出した。前に、高橋が取ったやつを送りたいんで、連絡先教えてもらってもいいですか?」
お互いにスマホを取り出し、メッセージアプリを開いてQRコードを読み取り、友達追加した。
高橋くんから、写真が送られてきた。
二人でスマホを見つめながら、写真を選んでいるツーショット写真。
前に関口くんが、私と高橋くんがいるところを、他の人が一切入る余地がない、二人だけの世界みたいだと言っていた。送られてきた写真が、ほんとうにそんな感じがして、少し照れくさく、でもとても嬉しかった。
「……ありがとう」
ほんとうは今すぐにでも指で広げて写真を拡大してみたかったけど、恥ずかしかったので家に帰ってからにしようと思い、お礼だけ伝えた。
「いいえ。……なんかあったら、いつでも連絡してください」
「うん、わかった」
そう言ってスマホをポケットにしまおうとすると、高橋くんが「あと、」と言ったので、私は彼の顔を見上げた。
「何もなくても、連絡していいですか?」
高橋くんは、まっすぐ私の目を見て言った。
鼓動が早まる。顔が熱い。
思わず目を逸らしてしまいそうだったけど、それだと美術室で最後に一緒に過ごした時と同じことを繰り返してしまう、と思った。
もう、後悔したくない。
私は高橋くんの目を見て、精一杯の勇気を振り絞って言った。
「私も、何もなくても、連絡したい」
「えっ?」
高橋くんは目を丸くして固まった。
「えっ?」
私も、高橋くんの反応が予想外で、びっくりして同じように聞き返してしまった。
「あ、いや、すみません。びっくりして……。どうしよう、めっちゃ嬉しい」
高橋くんは右手で口を覆い、顔を伏せた。いつもまっすぐ見てくれる彼が、照れたように目を逸らすのが、胸をきゅっとさせた。
ああ。私は今でも、高橋くんのことが好きなんだ。会えなかった時間も、ずっと好きだったんだ。
自分の気持ちに気づいたら、いまこの瞬間、こんなに近くで一緒にいられるということだけで、十分すぎるくらい幸せな気持ちで満たされていた。
暗いから送ります、という彼の優しい言葉に甘え、駅までの道を一緒に並んで歩いた。
アスファルトの道は凍てついて足の底から冷えたけれど、頭も、顔も、心臓も、ずっとずっと熱かった。
ピロリン。
高橋くんと別れ、駅のホームで電車を待っていると、スマホの着信音が鳴った。
私は急いでポケットからスマホを取り出して、画面を開いた。
『電話してもいい?』
メッセージは由紀からだった。
実際の時間は、ほんの数十秒か、数分か、わからないけど、そんなに経っていないと思う。だけど、ずっと長い時間一緒に絵を見ていたような、そんな感覚がする。
心地よい沈黙を切り裂くように、背後から女子生徒が二人、「え、それやばくない?」「やばいよね?」などと言って笑い合う声が聞こえた。
私は慌てて高橋くんの背中から手を離して、少し左にずれて距離を取った。
恥ずかしくて俯いていたら、背後の声がどんどん大きくなってきて、「できれば写真は買いたい」「それはマストでしょ」と言って笑いながら、二人で靴箱の方に吸い込まれるようにして消えていった。
「あ!」
静けさが戻った高橋くんが私の方を見た。
「写真で思い出した。前に、高橋が取ったやつを送りたいんで、連絡先教えてもらってもいいですか?」
お互いにスマホを取り出し、メッセージアプリを開いてQRコードを読み取り、友達追加した。
高橋くんから、写真が送られてきた。
二人でスマホを見つめながら、写真を選んでいるツーショット写真。
前に関口くんが、私と高橋くんがいるところを、他の人が一切入る余地がない、二人だけの世界みたいだと言っていた。送られてきた写真が、ほんとうにそんな感じがして、少し照れくさく、でもとても嬉しかった。
「……ありがとう」
ほんとうは今すぐにでも指で広げて写真を拡大してみたかったけど、恥ずかしかったので家に帰ってからにしようと思い、お礼だけ伝えた。
「いいえ。……なんかあったら、いつでも連絡してください」
「うん、わかった」
そう言ってスマホをポケットにしまおうとすると、高橋くんが「あと、」と言ったので、私は彼の顔を見上げた。
「何もなくても、連絡していいですか?」
高橋くんは、まっすぐ私の目を見て言った。
鼓動が早まる。顔が熱い。
思わず目を逸らしてしまいそうだったけど、それだと美術室で最後に一緒に過ごした時と同じことを繰り返してしまう、と思った。
もう、後悔したくない。
私は高橋くんの目を見て、精一杯の勇気を振り絞って言った。
「私も、何もなくても、連絡したい」
「えっ?」
高橋くんは目を丸くして固まった。
「えっ?」
私も、高橋くんの反応が予想外で、びっくりして同じように聞き返してしまった。
「あ、いや、すみません。びっくりして……。どうしよう、めっちゃ嬉しい」
高橋くんは右手で口を覆い、顔を伏せた。いつもまっすぐ見てくれる彼が、照れたように目を逸らすのが、胸をきゅっとさせた。
ああ。私は今でも、高橋くんのことが好きなんだ。会えなかった時間も、ずっと好きだったんだ。
自分の気持ちに気づいたら、いまこの瞬間、こんなに近くで一緒にいられるということだけで、十分すぎるくらい幸せな気持ちで満たされていた。
暗いから送ります、という彼の優しい言葉に甘え、駅までの道を一緒に並んで歩いた。
アスファルトの道は凍てついて足の底から冷えたけれど、頭も、顔も、心臓も、ずっとずっと熱かった。
ピロリン。
高橋くんと別れ、駅のホームで電車を待っていると、スマホの着信音が鳴った。
私は急いでポケットからスマホを取り出して、画面を開いた。
『電話してもいい?』
メッセージは由紀からだった。