ぱたん、と扉を閉めて、机の上にプリンを置き、ベッドにダイブする。
 
混乱した頭を整理しようと、今日一日の出来事を一つ一つ思い出そうとした。
 
期末テストは、無事に終わった。自信も、まあまあある。テストが終わってから、滝波先生に呼び出された。怒られると思ったら、県展入選、しかも県知事賞受賞と知らされた。自分が描いた絵が、初めて入賞して、嬉しかった。文香と一緒に帰る。文香が「おめでとう」って言って、一緒に喜んでくれて、ほんとうに、ほんとうに、嬉しかった……。
 
ここまで、完璧な一日だった。人生最高の日に、なるはずだったのに。
 
涙が鼻と頬をつたって、枕に染み込んでいく。ズルッと垂れてきそうな鼻水を啜った。
 
幸福は、オセロをひっくり返したように、あっという間に形勢逆転し、絶望の底へとつき落とされる。
 
私がバカだった。全然、学習しない、大バカだ。
 
今までも、ずっとずっとそうだった。足が速くて、背が高くて、笑顔が可愛い妹は、いつだって私よりも≪上≫の存在だ。
 
陽キャは上で、陰キャは下。運動部は上で、文化部は下。美人は上で、ブスは下。
 
クラスにも、この家の中にも、目に見えないけれど、はっきりと序列というものが存在する。
 
ぐちゃぐちゃの頭で、現代社会の授業で習ったヒエラルキーとカースト制度の違いを思い出した。ヒエラルキーは単なる階層のことで、地位は上下に流動性がある。一方のカースト制度は、生まれながらにして身分が固定され、その身分のままに生きていく。
 
そうであれば、私は一生、ヒエラルキーの再底辺にいる奴隷のままだ。
 
思いがけず手にした賞金は、あっけなく奪い取られ、各上の妹のために献上される。
 
寿司は私の好物で、焼き肉は由紀の好物だった。
 
勉強も、絵も、必死になって頑張ったところで、どうやったって由紀には勝てない。そんなこと、ずっとずっと前から、わかりきっていたはずなのに。
 
あふれ出てくる涙を止める術が見つからない。私は声を押し殺して泣く。
 
強くて、優しくて、毎日努力している高橋くんに少しでも近づきたかった。自分と同じ文化部女子の川本さんのように、スポーツができなくても堂々とした、輝く人になりたかった。
だから、最高の自分でいましょう、と言ったエドワーズ先生の言葉を胸に、毎日、自分なりにベストを尽くしたつもりだった。たったの三か月だけど、私はここまで変われた。そう、思っていたのに。
 
自惚れだった。
 
自分が平凡であることを忘れて、バカみたいに、叶わない夢を追いかけてしまった。
 
必ず最後には傷つく結末になることを、私はすっかり忘れてしまっていたようだ。