記録的な猛暑と言われた八月が終わり、今日から九月というのに、うだるような暑さはそのまま続いていた。

今日から二学期。久しぶりに教室に入ると、「()()、久々!」と言いながら、クラスで一番仲がいい松田(まつだ)(ふみ)()が近寄ってきた。

「文香、久しぶり!元気だった?」

「何とか生きてた!けど、昨日は鬱すぎてヤバかった」

「夏休み、何してたの?」

「んー、特に何も!買い物したり、遊んだり、寝たり、ゲームしたり、寝たり、ドラマ見たり、何だりかんだりしてたらあっという間に昨日になってた」

私は思わず噴き出してあはは、と笑ってしまった。そして、「一緒、一緒!」と答えながら、自分の席に着き、鞄を机の横に引っ掛けた。

私たちの学校は八月の一か月間が夏休みとなる。夏休み期間中、宿題以外の勉強は一切しなかった。

美術部としての活動も個人に委ねられているので、私は一度も学校に行かず、ただひたすら家で本やマンガを読んだり、アニメを見たりして過ごしていた。

もう二度と来ない、貴重な高校二年生の夏休みを、毎日の延長戦上にあるような怠惰な生活を送ってしまった一か月間。

≪時間がもったいない≫

そんなことは、重々、わかっているつもりだ。

先月、双子の妹の由紀がインターハイに出場し、応援に行った両親が自宅に持ち帰った大会記念チラシがリビングのテーブルの上に置かれてあった。走り幅跳びをしている選手の疾走感溢れる絵の横に、大会スローガンの≪かがやく一瞬 あふれる青春の汗≫という書がでかでかと印字されている。

≪かがやく一瞬 あふれる青春の汗≫

私が諦めたものを濃厚に凝縮したような言葉で、思い出すたびに気分が落ち込む。

輝く一瞬のために、青春の全てを懸けて毎日を過ごしている人たちに、私の二十四時間のうちの少しを分けてあげたい。私が無駄にだらだらと過ごしたもったいない時間を、有効活用してくれる人が使えばいい。由紀ならきっと、分け与えられた時間を最大限に使い、今よりもずっと輝く青春の日々に費やすに違いない。

負け惜しみのような、ひねくれた気持ちを抱きながらも、だからといって何一つ現状を変えようと努力しない自分に対して、いい加減、嫌気がさしていた。

「あ、そっか!今から全校集会じゃん!早紀、行こう」

クラスのみんながぞろぞろと体育館に向かっていくのを見て、文香が声をかけてきた。

「うん、そうだね」

私はスクールバッグを掛けた机の反対側に掛けられている体育館シューズを手に取って、文香と一緒に体育館を目指して歩いた。