1.

 高校一年の冬が終わろうとしている。
 ふとそのことに気がついたのは、雪が降り積もる一月下旬のことだった。
「大変お待たせいたしました。小鳥遊 千隼さん、三番診察室にお入りください」
「……はい」
 その日の僕は学校近くの総合病院にいて、待合室で一時間近く待たされた末にようやく呼び出された三番診察室では、白髪まじりの白衣の医者が小難しい顔で僕を待ち構えていた。
「あー、これは間違いなくヒビ入ってますね。全治三ヶ月ですわ」
 レントゲン写真を片手に、出しぬけに下された最悪な診断結果。
 すぐさま「まあ、やっぱり!」と嘆きの声を上げたのは付添役である僕の母親の方で、当の本人である僕は、窓の外の白銀の世界をぼんやり眺めながら、そのやりとりをまるで他人事のように聞いていた。
「……」
「小鳥遊さん?」
 名前を呼ばれたので視線を外から室内に移し、医者を見る。彼はいかにもリアクションが欲しそうな顔をしていたため、とりあえず僕は無難な返事をしておくことにした。
「そうですか……」
「あれ、ずいぶん涼しい顔してるね。痛まないのかい?」
「痛いです」
「そうでしょう。ギプスで固定しておきますからね。しばらくこちら側の足は動かさず安静にしておいてください」
「はい」
「ああそれから。念のため痛み止めを処方しておきますので、どうしても痛みが我慢できなかった場合はそちらを飲むようにしてください。痛みと腫れが引いてきたらリハビリを始めてもらいますからね」
 はあ、とか、まあ、とか適当な相槌を打って適切な処置を終えてから、診察室を出る。
 脇にいた母親は、始終反応の乏しい僕を見て薄ら笑いを浮かべていたけれど、迸るように熱い足の痛みを感じても、特にこれといった感情が湧いてこないのでどうしようもない。
(リハビリ……めんどくさいな)
 高校一年の冬。夢を失くし、色を失った毎日を生きていた僕は、全てが無気力だった。