店はモールから徒歩3分にある小さなビルの一階にあった。道路に面していて助かった。
 中は思ったよりも広く、入ってすぐショーケースに入った様々な車両が出迎えてくれた。
「見て見て!そこ走ってる特急列車だ」
「改めてみると本当にびっくりね。本物そっくり」
 先輩と先生の二人がショーケースに釘付けになっていた。俺もどんなのがあるか気になったから見てみることに。
 ショーケースは四段になっていて、上三つに車両が線路の上に置いてある。上は普通列車、真ん中は特急列車、下は貨物や夜行列車というふうに分けられていた。
「何してるんですか?行きますよ」
「あ、ごめん」
 しかし先輩と先生は夢中になってて気づいていない。それを見た瀬戸さんがなんと二人の首根っこ掴むとショーケースから引きはがしてしまった。
「痛い、痛いよ瀬戸ちゃん」
「車両は今日関係ないですよね?」
「ごめんなさい」
「金谷先生もなんで教師が生徒よりも夢中になってるんですか。監督してくださいよ」
「おっしゃる通りです」
 どっちが先生がわからないな……。というか人間を片手で引きはがすってすごい力だな。あんな細い身体のどこにそんなパワーがあるんだろう?怖くもあり不思議だ。
 まず向かったのはレンタルレイアウトのブースだった。写真で見るよりも大きく感じ、迫力がある。レンタルには一回一時間700円かかるけど、これだけのレイアウトを一時間堪能できるんなら安いな。
 店員さんに4人分のレンタル料を支払い中に入る。もっとも一時間も遊ぶ時間はないため、一つのコントローラーをみんなで回すことに決めていた。それを伝えると真ん中の椅子を使ってくれと指示された。ちなみに車両は持ってないと告げると車庫エリアにある車両を貸してくれることになった。
「ではどれを出しましょうか?」
 一つしか線路なにので一本だけになるけど、誰も手を挙げなかった。
「瀬戸さんが選んだらどうかな?」
「え、私?」
「だって今日はすごい助かったし、ここに来たのも瀬戸さんの提案だからね」
「じゃあお言葉に甘えて。と言っても私は鉄道の車両に……」
 急に止まって動かなくなった。視線の先には青い電車が停まっている。あの列車はショーケースの夜行列車のコーナーに置いてあった車両だ。
「あの、これでお願いします」
「かしこまりました」
 店員さんが返事してから車両を手に取り本線に移し替え始める。座っている瀬戸さんの前に一番先頭にあったよく貨物を引いてる電車が置かれて、その後ろに残りの車両が一両ずつ丁寧に本線に置かれた。
「ではどうぞ」
「しゅ、出発進行」
 お決まりの掛け声をしながら事前に説明されていたコントローラーのレバーを引いた。一気に倒したから列車も急加速して駅を出発してカーブを曲がって行った。
「おお!」
 店員さんが隣にモニターを持ってきてくれて、そこには先頭車両に搭載されたカメラからの映像が流れている。ちょうどトンネルに入ってしまったので真っ暗だけど、外を出ると港町を走行している。運転手になった気分を楽しめる。
「……楽しい」
 瀬戸さんの顔が若干ニヤケの入った笑顔になっていた。ちょっと珍しいかもしれない。が、顔をジロジロ見てるのがバレたら何言われるかわからないからちょうど戻って来た列車に目を向けた。そのまま通過しまたカーブの先へと列車は消えていく。
 今度は俺がその列車を追いかけた。けどカーブの先は狭いのと先輩がいるため通れないから入り口側を通り、反対のレイアウトへ出る。そこは朝の港町を模したところへ、夜行列車の模型が通過した。なんか本当に一日の始まりって感じがする。そして列車はトンネルに入り、瀬戸さんのいる駅で停まった
「結構楽しいわねこれ」
「瀬戸ちゃんノリノリだったね。指差し確認なんかしちゃむて」
「み、見てたんですか」
 なにそれ、見たかった。そんな貴重なシーンを見逃すなんて……ついてない。
「じゃあ次は私」
 先輩は15分みっちり一回も停めずに列車を走らせ続けた。