買い出しから戻ったら下校時間だったため次の日から再スタート。
 本に書かれていることをアレンジを入れず一個ずつ丁寧に集中して行う。
 最初はやはり基盤作りだ。主なことは基盤の準備とトンネルの位置の確認と書いてある。ということは本番用のレイアウトと同じことをすればいいみたいだ。唯一違うのは俺らの行程にはない板の連結があるということ。ならやらなくていいのかと思うけど、あくまでも練習だからそのとおりにやった。取り付けには電動ドライバーを使ったけど、これもいつ使うことなるかわからないからやっておいて損はないと思う。出来はまあまあ、少なくともねじがずれなかったことは自分をほめてあげたい。
 次は地形作り。俺たちが練習をする原因ともなった発泡スチロールの加工に入る。俺たちのレイアウトと違って大きな山は少ない。地形をよく見て慎重にカットしていく。最初のトラウマがあるから本の解説だけでなく動画を見て実際の手の動きとかを確認してイメージトレーニングもする。カッターと言えど紙を切ったりするのとはわけが違うから、感覚を掴みたい。
 一時間後、見様見真似で大きなミスもなく形に出来た。そのできた発泡スチロールを一旦ボードに戻して地形を確認する。川の部分とは離れてしまっているから慎重に当てる。ボードの線と本の写真を確認する。大丈夫だ。
 なんとか成功した。細かいところは先輩がやっぱりちょちょいのちょいと直してしまい、先輩のすごさを改めて実感した。
 基本的な地形ができたらもう線路を設置する。組み立てた線路をボンドでラインに合わせて固定する。これ自体は簡単だけど橋脚部分が厄介だ。橋脚に合わせて地形を削らないといけない。ずれないように刃を慎重に入れて、橋脚の形に合わせる。途中手が痛くなったが、一人で出来ないとどうしようもない。自分の尻を叩いて作業を続けた。そのおかげでちょっとおかしいけど車両が走れる程度にはなった。トラウマゾーンをなんとか突破した。
 地形作りはもう一つ、山を作る。まず端っこにあらかじめ切り抜いて作っておいたトンネルスペースの上に大きな山の一番下にあたる部分の発泡スチロールを置いて、次に一回り小さいものを置いてを繰り返しピラミッドみたいな形を作る。そこから山の起伏を表現するため、新聞紙を丸めたものをたくさん敷き詰め、テープで固定する。紙粘土を使って本格的な地形を再現する。
 アレンジはなしと言ったけど、ここだけ唯一本とは違うものを使った。一つはお金の節約だけど、もう一つの理由は何を使っているのかわからなかった。これは焦ったけど別のページに紙粘土でも代用可と書いてあったから百均で購入してきた。
 そのあとは塗装に入る。その地面に近い色を塗る。山はもちろん道路や畑、川もそうだ。下塗りみたいなものみたいだ。ただ、濃い色で塗らない方がいいらしく、薄く塗った方が色のムラが出てそれがいいという動画もあった。それに従う。
 そして色塗りの中でも俺が一番に苦労したのはトンネルの入り口や石垣だ。実物は石垣の間とかは汚れとかがあるがそれを表現する墨入れという作業が不器用な俺には大変そのもの。溝にわずかな量の色を入れ、それを綿棒で伸ばすという作業だ。けどこれはリアリティーを出す大事な作業なので逃げられない。瀬戸さんもホットタオルを持参して頑張った。なんとか形になり、畑を作ったときに作物をイメージした緑色の綿のようなものを接着するときや、最終日に街灯や電柱をつける作業が俺も瀬戸さんも楽になっていた。
 なんとなくそれっぽくなってきた。
 次に山の木々を再現する。ボンドの水溶液、場合によってはボンドそのものを塗り、下色(計画した色)に合わせた色の綿のようなものをつけていく。場所によってはターフという粉を使う。粉を使うときは落とす量を気を付けて、ケーキで粉砂糖を振りかけている網を持ってきて代用した。これが俺たちの精神をだいぶ助けてくれた。星奈がケーキ作りをしていた時をおもいだして持って来てよかった。
 川、今回は渓流はまず土色にしてから水の流れる部分を青く塗る。乾燥したらボンドを塗ってt、それが乾かないうちに流木を置いたり、小石を置いたりする。コツは木は幹の下を平に加工し、石は接地面を平らなモノを選べば水に没した感じになるという。最後に砂、バラストというものを蒔く。これが流れや向き、幅を表現でき、左右に蒔く砂の量に気を付けた方がいい。後は乾燥するのを待ち、川岸に山を作った時みたいに草木を蒔いたり、絵具で泡を表現して完成だ。
 最後に建物や電柱、そしてLED電球を取り付けて完成した。
 慎重にやっていたから一週間どころか一か月近くかかってしまった。けど、見栄えは悪いが一応形にはなった。最後に試験もかねてブルートレインを走行させて、完成した。
「つ、疲れた」
「なんとか作業できる段階にまで来ましたね」
「いや~。私もかなり疲れたよ。いたずらグッズよりもしんどいよこれ」
 床に座り込みそれぞれが思い思いの感想を言う。その声は俺も含めて満身創痍だ。これで前原集落完成したら、気絶するんじゃないか?
「でも、これでもう大丈夫ですね」
「うん。手順と感覚は掴んだ。これを忘れないうちに作成に入りましょう」
「おー」
 全員が手を挙げ決意を新たにした
「……けどもう今日は帰ろう。休みたい」
「多分今までの反動が来ますよこれ」
「だね。明日は休みでにしましょう。先生、いいですか?」
「は、はい。お大事にね。しっかり休んでください」
 練習用レイアウトの完成という最初のゴールを達成した。帰った後言った通り強烈な眠気が襲いそのまま夢の世界へ旅立った。
 完全に眠ったつもりだったけど夢をみた。俺と瀬戸さんと先輩の三人が運動部のノリだ抱き合っていた。それを回りの人が拍手をしている。そして、その映像を俺自身が見つめている。
 ああ、これは多分正夢になるんだ。もしかしたら総合優秀賞を獲っちゃって我を忘るくらい喜ぶ。こうなるためにも、明日からまた頑張るんだ。
 その映像に手を伸ばした時、目の前には俺のアパートの部屋の電球があった。
 首を回してみるけど当然誰もいない。
「気が早すぎだ……」
 自分に呆れ、朝の支度をする。
「でも、なんか寂しいな」