「うわあ……、人凄いね」
「参拝ちょっと落ち着いてから行かねえ? あっちまで並んでる」
「ほんとだ。あ、向こうで甘酒配ってるみたい」
「向こう行ってあったまってるか」

 夜中なんて関係なく楽しそうな声があちらこちらから聞こえてくる。新年独特の高揚感を雰囲気から感じられ、隣を見れば好きな人がいることに自分の気持ちも高ぶっている。

 人混みをかき分け歩いていると、瑞希が女の子に声をかけられた。

「瑞希先輩?」
「あれ、来てたんだ」

 ……あ、この子確か前に駅で見かけた子だ。隣にいる子は初めて見るけど、話している所を見る感じ瑞希と仲が良さそうだ。

「寒がりで人混み苦手な瑞希が出てくるなんて珍しいと思ったら、ねえ~?」
「ふふ、瑞希先輩が幸せそうな顔してる」
「あ~、もう……、うるさいなあ……。颯斗、この子のこと前に駅で見かけたと思うけど後輩で、もうひとりは俺の幼馴染」
「水瀬颯斗です。よろしく」
「颯斗くんのことは瑞希からよく聞かされてますよ~。二度も瑞希が助けられたみたいで。ありがとね」
「二度も?」
「ちょっ!」
「え? まだ言ってないの?」
「なんのこと?」
「あ~! そうだ! 甘酒取りに行こうとしてたんだ!ほら、颯斗行こ!」
「えっ」
「瑞希先輩また年明けに~」
「はいはい、じゃあね!」

 瑞希に背中を押されながら配っている所まで向かうと、紙コップに熱々の甘酒が注がれる。それを受け取ると、賑やかな場所から少し離れ、ベンチがある静かな場所へと移動した。

「はあ~……、あったかい……」
「瑞希~」
「んー?」
「〝二度も〟ってなに?」
「うっ……」

 瑞希の方を見ると気まづそうにしてそっぽを向いている。近づいて顔を覗き込むと、ボソボソと小さく何かを呟いた。

「ん?」
「ええー……。いやあ……、さ」


 ーーまだ高校に入る前の春休みの話なんだけど……。高等部に用事があって電車に乗ってたんだ。その時の電車がまあ結構満員で。人混みに酔っちゃって立ってるのも辛かったんだ。そしたら近くに座ってた人が、俺の顔色が悪いのに気がついて声かけてくれたの。〝大丈夫ですか?〟って。その時、席代わってくれて凄い助かったんだ。

「もう颯斗は覚えてないかもしれないけど……」
「それが、俺だった、と……。っあ!! もしかしてのど飴の?!」
「……! そうそう! わ、覚えててくれてる」
「覚えてる! あの時くれたのど飴、めちゃくちゃ助かった! そっか、あれは瑞希だったんか~」
「ずっと喉が辛そうだったから、もしかして調子悪かったのに代わってくれたのかなと思って、申し訳なかったんだ」
「俺さ、あれから喉の調子悪い時にあののど飴買ってんだ。色々並んでんだけど、あれ見ると手伸ばしちゃうんだよ」
「だから、助けてもらったのは二度目なんだ。あの時もありがとう」
「なんか……、すげー嬉しい。あの時から繋がってたんだな、俺ら」

 あの時も二度目も偶然かもしれない。でも、きっとあの出来事がなかったら瑞希と話すことも関わることもなかったと思う。
  ーーだから、大袈裟に奇跡とか運命なんて言ってもいいだろうか。

「先に俺の方が好きだったと思うって言ったのは、まあ……そういうのもあって、ずっと颯斗のこと意識してたってことだったんだけど……」

 照れくさそうに頬を掻きながら微笑んでいる。瑞希のこの〝可愛い顔〟って、もしかして俺のこと思ってくれてんのかな。そうだったらいいな。

「あ、なんか参拝列捌けてきてるね。行ってみる?」
「……もうちょっとこのままがいい」

 瑞希の手を取って自分の体重を預けると、瑞希の方からも優しく寄りかかってくれた。何て言ったらいいのか表現出来ない、フワフワ浮いているのにずっしりとした気持ちが今は心地いい。


 夜が深くなってきた。繋がれた手と左側に感じる瑞希の温かさを胸で抱きしめながら二人で星空を見つめた。



 おわり