「また年明けなー!」
「おー! ラインするわ!」
修了式を迎え、部活も納めた。年明けまで学校に行くことがなく、毎朝瑞希に会えなくなるのが寂しい。
〝ーー今年もあと四時間程で終わりですね!〟
〝ーー皆さんはやり残したことはないでしょうか?〟
「やり残したこと、かあ……」
大晦日。リビングで流れる年末特番を横目に瑞希と連絡を取り合っていた。特に話題などがある訳ではなく、口で話せる会話を会えないが為に文字にして短文で送り合っている。
ーーーー電話してもいい?
会話を遮ってポツンと送られてきた文面に、嬉しくなってOKスタンプを送る。
「あれ、画面真っ暗なんだけど」
「画面?」
「ビデオ通話じゃねえの?」
「ビデオ通話するの?」
「え、だって顔見て話したいじゃん」
「っ……、またそうやって……」
「お~、眼鏡だ」
「家にいる時は眼鏡なんだよね」
四日ぶりに見た顔に思わず口角が上がる。じっと画面を見つめると、手でインカメラを隠されてしまった。
「なんで隠すん?!」
「いや、そんな見なくたっていいじゃん……」
真っ暗だった画面が再び瑞希を映すと、照れた表情でこっちを見ていた。
「電話とかどしたん?」
「あー……、いや、特に何ってなかったんだけど……。颯斗さ、この後何するの?」
「この後? 瑞希と電話」
「いや、そうだけど! そうじゃなくて……。ほら、初詣とか! 友達と夜中行ったりしないの」
「あー……、年明けに会う約束してるから夜中ってないかも」
「……あの、さ」
「ん?」
「……もし、颯斗が良かったらなんだけど……、これから初詣行かない?」
「行く!」
「うわ、即答」
瑞希からの提案に大きく頭を振ったら画面越しで笑っている。
二十三時半に乗り換え駅改札集合。冬休み初めての待ち合わせだ。
「行ってきまーす」
「気をつけるのよ~」
少し早めに駅に向かったら既に瑞希はいつもの所で待っていて、改札を出て小走りで向かうと気がついてこっちを向いた。
「あれ、来るの早いね」
「瑞希こそ早いじゃん」
「準備が早く終わっちゃって。颯斗、ここに大きな神社あるの知ってた?」
「聞いたことはあるけど行ったことないな」
「俺も。多分混んでるよね~」
目的の神社まで歩いて十五分。裏道を通っているからか道のりにはあまり人通りがなく静かで、お互いの足音が鳴り響く。
「ってか、薄着じゃない?」
「そう? 俺、体温高めなんだよなあ」
「ええ……。俺、冷え性だから着込まないと無理……。風邪引かないようにね」
「おー」
「……あ、寒いかと思ってこれ、颯斗の分もあっためといたんだけどいる? 暑くなっちゃう?」
「いる! ちょーだい」
「俺の上着のポケット、二つ入れてたからすごい温まってる」
もらったカイロを頬に当てながら、勝手に瑞希のポケットに手を入れ込む。自分でしておきながらぐっと近くなった距離に柔らかく心臓が弾む。
「あったけえー……」
「……っ、でしょ」
……あ、また可愛い顔してる。時折見かけるこの表情は、どういう気持ちなんだろう。
ーー瑞希って、俺のことどう思ってくれてる?
〝ーー皆さんはやり残したことはないでしょうか?〟
ふと、テレビで流れていた特番の言葉を思い出した。
なんだろう。なんか、やり残したとかじゃないけど、瑞希に伝えたい。
今、この気持ちが伝わってほしいって全身が叫んでいる。
「あのさ」
「ん?」
「瑞希のこと、好きなんだけど」
「……っ、え?」
目を大きく見開いて呆然とする瑞希を真っ直ぐ見つめる。そりゃあ、いきなり言われたらそうなるわな。驚かせちゃっただろうか。
「……あ、ありがと」
「それって俺も好きだよってこと?」
「いや、待って、……颯斗のその、好き、っていうのは……さ、」
「俺、瑞希と友達以上になりたい」
「……ってか、近い! なんで寄ってくるの!」
「俺もって言ってくれるまでポケットから手抜かないし、もっと近づく」
みるみる赤くなる顔を見つめながら、自分から逸らさないようにグッと距離を詰める。
少しの間沈黙が流れると、瑞希はゆっくりと口を開いた。
「……っ、おれ、も」
「俺も?」
「……颯斗のこと、好き……だよ」
「ほんと? ほんとに? 自分で言うのもあれだけど、俺に言わされてない?」
「言わされてない、……ってか待って、ほんとこの距離恥ずかしい、無理なんだけど……っ」
「なんで、好き同士ならいいじゃん」
「……あのさ、多分、先に俺が颯斗のこと好きだったと思う」
「え?」
…………ーーーーゴーン。
「……あ」
「鳴っちゃったね……」
遠くの方で鐘が鳴り響き、十二時を回ったのを確認した。気がつけば新年を迎えてしまって、二人で顔を見合わせて笑った。
「今年も宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
「なんか、年の初めに好きな人に一番に会えるっていいな」
「だ、だからそういうとこ……!」
「そういうとこって?」
「はあ~~……。なんでもない」
「あ、また可愛い顔してる」
「可愛い顔ってなに?!」
「んー? こっちの話。とりあえず神社行くか~」
瑞希のポケットから手を出すと、自分のポケットに手を入れる。ゆっくりと並んで再び歩き出すと、優しく瑞希の肩を叩いた。
「……今度は何でしょうか?」
「瑞希、ちょっとここに手入れてみて」
「手?」
「貰ったカイロのおかげであったけーの」
「え、なんか俺のポケットの中より温かくない? 基礎体温違うとこんな違うの? ……って、……抜け、ないんですけど」
「次は俺が瑞希のことあっためる番な」
ポケットの中でそのまま瑞希の手を握る。冷え性だと言っていた手は、さっき触れた時程冷えてはいなくて、寧ろ体温の高い自分と同じくらい温かい。
まあ、だからといって離すわけはないんだけど。
口元をマフラーで隠しながら握り返してくれた手を、もう一度応えるようにして握る。
瑞希に思いを届けて、少し先に進んだ関係。鐘の音と共にきた新しい一年。白い息を吐きながら上を見れば真っ暗な空に星が点々と輝きを放っていて、身体のずっと内側から温かいせいか、冷えきった空気が顔に当たっても気にならない。
「なあ、そう言えば〝先に俺の方が好きだったと思う〟って言ってたけど、どういうこと?」
「……ひ、秘密!」