大会が無事に終わり、あっという間に季節が巡って葉に色がついた。
 大会前に連絡先を交換してから、他愛もない連絡を取り合っている。瑞希と繋がるきっかけがあるのは嬉しい。
 今まで〝おはよう〟と交わした挨拶に〝おやすみ〟が追加された。普段友達とあまり連絡を取らない自分が毎日続いているのは瑞希だからだと思う。

 ーーーー明日もいつもの時間にいる?
 ーーーーいるよ。颯斗は?
 ーーーー俺もいる!

 そして、何となく集まっていた朝もいつの間にか待ち合わせになっていた。



「なあ、お前らって誰かと毎日取ってるヤツとかいる?」
「俺、彼女と毎日ラインしてる」
「颯斗は?」
「ひとりいる。なんで?」
「他校に気になる人がいて、その人と最近よく遊んだりしてるんだけどさ~。結構サッパリした性格してて、毎日連絡するの面倒って言われちゃったんだよなあ……」
「まあ、そういう人もいるだろうね」

 四限終わりの昼休み、机を囲んで昼ご飯を食べながら各々の場所で雑談が繰り広げられる。
 女子に関わらず男子高校生もお年頃なもので、男子校でも恋バナというものはあるのだ。

「でもさ! 気になってる人とか好きな人なら毎日何でもいいから連絡取りたくね?!」
「じゃあ、相手に〝毎日連絡しないと寂しい!〟みたいになるくらい、好きにさせるしかないんじゃない」
「やっぱそうだよなあ……。よし、頑張る……!」
「頑張れ~」
「〝好き〟、かあ……」
「ん? どしたー?」
「あれ、颯斗にも春が来そうな感じ?」

 全然気にしてなかったけど……もしかして瑞希に対する俺のこういう感情って〝そういうこと〟だったりする?

「はい、先生」
「何ですか水瀬君」
「え、急にコント始まった?」
「恋とか好きとかってどうやったら分かりますか」
「思春期の男子高生にいい質問ですね~。ん~、颯斗がさっき言ってた毎日連絡取るって言ってた人って、気になってる人だったりするの?」
「気になる……っていうか、毎日会いたいって思うんだよ。会って話したいし知りたいしもっと一緒にいたい、とか……」
「気になると知りたいって違うん?」
「気になるから知りたい! みたいに結びつくと思うから違くはないかも。そこまで思ってんならもう恋じゃない?別にこうじゃなきゃ恋じゃない! とか好きじゃない! ってないと思うよ」
「なるほど……」
「いいね、颯斗のそういう話新鮮で。弓だけじゃなくて、他にも興味持てたのは良いことじゃない?」

 初めは同じ車両に乗る高校生という関係から、あの日をきっかけに話すようになって、毎朝楽しくて瑞希のことを知っていくのが嬉しくて。進められた音楽を聴いてみようかなとか、本屋に立ち寄った時にこの漫画面白いって言ってたよなとか、もっと隣で瑞希のことを近くに感じたいなって思っていた。

 そっか。俺、知らないうちに瑞希のこと好きになってたんだ。
 ……うん、瑞希が好きだ。


「颯斗~。スマホ、なんかチカチカしてる」
「……あ、今日明日部活休みになった」
「お~! いいじゃん、毎日頑張ってんだからたまにはゆっくり休みなよ」
「そうだよ、明日もないなら夜更かし出来んぞ」

 そんな話をしていたら、グループラインに部活が休みになったと連絡が入った。大会もあって毎日根詰めて引いていたから久々のオフだ。
 いざ予定が無くなると、何をしていいか分からない。家に直行して帰るか、どこかに寄って帰るか……なんて考えていたら、ふと瑞希の顔が浮かんだ。
 こんな話をした後にと思ったが、こんな話をしたからこそ瑞希に会いたくなってしまったのだ。

 〝今日部活なくなったー〟とだけ送ってみる。会えたら嬉しいなと思ったが、瑞希にも予定があるかもしれないし〝放課後空いてる?〟なんて送って断られたらちょっと寂しいなと思い、少しだけ遠回りをしてみる。

 直ぐに既読がついて、少し経つと返信が返ってきた。

「よっし!」
「え、なに急にガッツポーズして」
「いいことあった」
「え~、なにあったん?」
「その人と放課後会うことになった」
「よかったじゃん」
「うわ~! 青春してる!」

 ーーーーえ、部活ないの珍しいじゃん!
 ーーーーあのさ
 ーーーーもし予定とかなかったら、放課後遊びに行かない?

 〝会いたい!〟の文面と一緒に喜びを表すスタンプを送ると〝学校終わったらいつもの駅の改札で!〟と返信がきた。



 放課後になり、帰る支度をして真っ先に校門を出た。待ち合わせは、いつもの乗り換え駅の改札。ワクワク高鳴る気持ち抱きながら電車に乗り込んだ。


 駅に到着し改札の方へ向かうと、先に到着していた瑞希が立っていた。その隣にもう一人、同じ学校の制服を着た女の子が楽しそうに笑いながら話しかけている。それに返すようにして一緒に笑っている瑞希を見て、心臓の奥の方がザワついた。
 
「瑞希」
「あ、颯斗」
「私行きますね」
「うん、じゃあね」

 こっちに向かって一緒にいた女の子が軽く会釈をしたので、反射的に頭を下げた。瑞希の方を見ると、目を丸く見開いてこっちを見ている。

「ん?」
「いや……、なんか放課後に会うの変な感じするなって」
「はは、確かに。……なあ、さっきの子って、さ」
「さっきの子? 知ってるの?」
「いや、知らんけど仲良さそうだったから同じクラスなのかなあって」
「ううん。あの子は同じ委員会の後輩の子。最寄り駅ここなんだって」
「そっか。……はあ~~~」
「なになに?! どうしたの?!」

 その場にしゃがみ込み、頭をくしゃっと掻いた。動揺した気持ちを鎮めるように大きく深呼吸をする。
 つい数時間前に自分の気持ちに気がついたと思ったらこれだ。好意を自覚すると、瑞希が誰かと話してるだけでこんな胸が詰まったような気持ちになってしまうのか。……全然今までと違う。

「なんもない~」
「颯斗さ、行きたい所とか何したいとかある? 誘った俺が言うのもなんだけど」
「いやー? 特にはないなあ……。瑞希といられんならどこでもおっけ」
「そ、うですか……」
「あ、腹減ったから何か食べたい」
「じゃあ、この辺だと学生多くて混んでるかもだからちょっと奥のファミレスでも行こっか」

 確かに放課後に会うの、不思議な感じがする。この時間に会えるなんて考えてもいなかったから嬉しい。瑞希のことを意識して隣を歩くのは少し緊張するけど。

 ちらっと横目で瑞希を見ると、少し下を向きながら歩いている。

「わっ! な、に」
「いや? 下向いてると前髪かかって瑞希の顔ちゃんと見えない」
「……っ、」
「あれ、顔赤いよ? 暑い?」
「あっ、暑くない!」

 
 
「すごい居座っちゃたね」
「時間大丈夫?」
「連絡入れてるから大丈夫だよ」
「瑞希といると心地いいから離れたくねえな~」
「……颯斗さ、それ素で言ってるの? さっきの……前髪、とか」
「え、うん。素? とか分かんねえけど思ったことは伝えたくなる」
「はあ~~……。そうですか……この人たらしめ……」
「なんか言ったー?」
「なんも!」

 口を抑えながらムッとした顔でこっちを見る瑞希が可愛くて笑ってしまった。〝自分の気持ちを自覚すると相手がキラキラして見える〟って言うのは、どうやら男女関係なくあるらしい。好きな人に対してのどうしようもない気持ちってジェットコースターみたいだ。