僕は、変わりたいと思った。
そして変わるなら今しかないと、そう思えた。
「で?ゆーとーせーな松野君が、俺たちに何の用?」
ニヤニヤと笑う目の前のクラスメイトは、僕を、いや他の人たちもいじめ、支配下に置いて楽しんでいる。
僕がここで、終止符を打つんだ、と拳に無意識に力が篭もる。
「やめてほしいんだ。もう。」
「はぁ?」
「クラスの中で誰かを無視するように指示したり、カーストを作ったり、前にも言ったけど、やっぱりこれおかしいよ。」
「おいおい、カースト最下位がなんか言ってんだけど?」
「最下位に人権はありませーん!」「おかしいって俺たちがルールだし?」「ほんとそれな!」とゲラゲラ汚らしく笑う彼らに顔が歪む。
何人が、一体何人もの生徒が彼らに心を踏みにじられたことか。
変わらないと。
僕がここで、変わらないと、現状は何も変えられない。
そんな時だった。
いつも鳴らないスマートフォンが着信を知らせたのは。
ポケットから少し出して画面を確認すればそこに書かれていたのは「王様」という文字。それに僕は目の前の彼らのことも忘れ、慌てて通話のマークへと指を滑らせた。
「王様!?どうしたんですか!?」
王様、という単語に、リーダー格のクラスメイトが「貸せっ!」とスマートフォンを奪い、スピーカー機能をオンにする。
それにより、静かな中庭に、王様の澄んだ声がよく響いた。
『……松野君を探していたんだけれど、見つからなくて。あと僕のことは『王様』じゃなくて『汪』で言いって言っただろう?』
まるで親しい友人に声をかけるような声色で、名前呼びを許容する王様のその台詞に、目の前のクラスメイト達ありえないと言うように僕に視線を向けた。
王様に敬称も付けず、しかも下の名前を呼んでいいなど、明らかに『特別な存在だ』と宣言しているようなものだ。
それが、カースト最下位の僕に向けて言われている。
なんとも言えない優越感と、幸福感が、内心を満たしていく。
「す、すみません……!今どちらにいらっしゃりますか?」
先程王様は僕のことを探していたと仰っていた。
それはつまり、僕になにか用事があったということだろう。それならば、目の前の彼らを放っておいても直ぐに駆けつけなければ。
正直、目の前の彼らはもう僕になにか大きなアクションを起こしてくることは無いだろう。
ここまであからさまな王様の『特別な存在』であるというアピールは彼らへの牽制ともとれる。
僕になにかすれば、今度は彼らが王様により処断される。きっと彼らはそう考えるはずだ。
『一年生棟まで来ているんだけど、都合悪かったかな?』
(王様がわざわざ一年生棟に!?)
それほどまでに重要な用事だったのだろうか、と見える訳でもないのに、思わず顔を自分の教室のある階へと向けてしまう。
すると、まるでそれを分かっていたかのように、見上げた窓の奥に王様が現れた。
そして、スっとその目が細められる。
『虫がいるね。』
それは、あまりにも冷たく、そして淡々とした声だった。
ヒュッと、リーダー格のクラスメイトの喉が引きつった音を鳴す。
「……その虫が、例えば僕に害を成したら、王様はどうしますか?」
虫なんて遠回しな表現をしておきながら、その対象はしっかりとわかる。
虫と比喩されたクラスメイトが救いを求めるように王様を仰ぎ見た。
しかし、
『……そうだなぁ、潰すとか?』
王様から吐き捨てられた言葉は残酷だ。
なんの価値もないものを見るかのようなその目に、クラスメイトの顔色は可哀想に成程血の気が引き、恐怖で歯をカチカチ鳴らす。
これは間違いなく、王様からの『警告』だった。
僕に手を出すような『害虫』は『潰す』と。
王様ほどの影響力を持つ人間が本気で人を潰しにかかれば、もう二度と立ち直ることの出来ない人生を歩むこととなるだろう。
『……害がなければ、放っておいていいと思うよ。僕はね。』
暗に何もしなければこ見逃してやると告げるその言葉に、クラスメイト達は勢いよく逃げ出した。腰も引け、情けない走り方だったが、王様に直接脅しをかけられたのだ。むしろ動けただけ凄い。
僕なら気絶しているだろう。
『ああ、虫がいなくなった。』
なんて呆気ない。
王様が一声、脅しをかけただけで彼らのこれから先の高校生活はより一層厳しいものになるだろう。目立たず、王様の機嫌を損ねないように、静かに息を殺すように過ごしていく。
彼らに残された残りの学校生活の過ごし方はもうそれしか無いのだ。
『所で松野君。今日の放課後は暇かな?』
まるで親しい友人にかけるような優しいその声色は、先程までクラスメイトに向けていたような冷たさは無い。
僕はその事にホッと安堵を漏らし、そして「はい、大丈夫です。」とその問いかけに回答を返した。
王様は僕を守ってくれたんだ。
変わりたいと言っても、力のない僕に、『王様の気にかけている後輩』という強みをくれた。
なんて強く、素晴らしい御人だろうか。
(……もっと、王様の役に立ちたい。)
いつの間にか僕にはそんな思いが湧いていた。
そして変わるなら今しかないと、そう思えた。
「で?ゆーとーせーな松野君が、俺たちに何の用?」
ニヤニヤと笑う目の前のクラスメイトは、僕を、いや他の人たちもいじめ、支配下に置いて楽しんでいる。
僕がここで、終止符を打つんだ、と拳に無意識に力が篭もる。
「やめてほしいんだ。もう。」
「はぁ?」
「クラスの中で誰かを無視するように指示したり、カーストを作ったり、前にも言ったけど、やっぱりこれおかしいよ。」
「おいおい、カースト最下位がなんか言ってんだけど?」
「最下位に人権はありませーん!」「おかしいって俺たちがルールだし?」「ほんとそれな!」とゲラゲラ汚らしく笑う彼らに顔が歪む。
何人が、一体何人もの生徒が彼らに心を踏みにじられたことか。
変わらないと。
僕がここで、変わらないと、現状は何も変えられない。
そんな時だった。
いつも鳴らないスマートフォンが着信を知らせたのは。
ポケットから少し出して画面を確認すればそこに書かれていたのは「王様」という文字。それに僕は目の前の彼らのことも忘れ、慌てて通話のマークへと指を滑らせた。
「王様!?どうしたんですか!?」
王様、という単語に、リーダー格のクラスメイトが「貸せっ!」とスマートフォンを奪い、スピーカー機能をオンにする。
それにより、静かな中庭に、王様の澄んだ声がよく響いた。
『……松野君を探していたんだけれど、見つからなくて。あと僕のことは『王様』じゃなくて『汪』で言いって言っただろう?』
まるで親しい友人に声をかけるような声色で、名前呼びを許容する王様のその台詞に、目の前のクラスメイト達ありえないと言うように僕に視線を向けた。
王様に敬称も付けず、しかも下の名前を呼んでいいなど、明らかに『特別な存在だ』と宣言しているようなものだ。
それが、カースト最下位の僕に向けて言われている。
なんとも言えない優越感と、幸福感が、内心を満たしていく。
「す、すみません……!今どちらにいらっしゃりますか?」
先程王様は僕のことを探していたと仰っていた。
それはつまり、僕になにか用事があったということだろう。それならば、目の前の彼らを放っておいても直ぐに駆けつけなければ。
正直、目の前の彼らはもう僕になにか大きなアクションを起こしてくることは無いだろう。
ここまであからさまな王様の『特別な存在』であるというアピールは彼らへの牽制ともとれる。
僕になにかすれば、今度は彼らが王様により処断される。きっと彼らはそう考えるはずだ。
『一年生棟まで来ているんだけど、都合悪かったかな?』
(王様がわざわざ一年生棟に!?)
それほどまでに重要な用事だったのだろうか、と見える訳でもないのに、思わず顔を自分の教室のある階へと向けてしまう。
すると、まるでそれを分かっていたかのように、見上げた窓の奥に王様が現れた。
そして、スっとその目が細められる。
『虫がいるね。』
それは、あまりにも冷たく、そして淡々とした声だった。
ヒュッと、リーダー格のクラスメイトの喉が引きつった音を鳴す。
「……その虫が、例えば僕に害を成したら、王様はどうしますか?」
虫なんて遠回しな表現をしておきながら、その対象はしっかりとわかる。
虫と比喩されたクラスメイトが救いを求めるように王様を仰ぎ見た。
しかし、
『……そうだなぁ、潰すとか?』
王様から吐き捨てられた言葉は残酷だ。
なんの価値もないものを見るかのようなその目に、クラスメイトの顔色は可哀想に成程血の気が引き、恐怖で歯をカチカチ鳴らす。
これは間違いなく、王様からの『警告』だった。
僕に手を出すような『害虫』は『潰す』と。
王様ほどの影響力を持つ人間が本気で人を潰しにかかれば、もう二度と立ち直ることの出来ない人生を歩むこととなるだろう。
『……害がなければ、放っておいていいと思うよ。僕はね。』
暗に何もしなければこ見逃してやると告げるその言葉に、クラスメイト達は勢いよく逃げ出した。腰も引け、情けない走り方だったが、王様に直接脅しをかけられたのだ。むしろ動けただけ凄い。
僕なら気絶しているだろう。
『ああ、虫がいなくなった。』
なんて呆気ない。
王様が一声、脅しをかけただけで彼らのこれから先の高校生活はより一層厳しいものになるだろう。目立たず、王様の機嫌を損ねないように、静かに息を殺すように過ごしていく。
彼らに残された残りの学校生活の過ごし方はもうそれしか無いのだ。
『所で松野君。今日の放課後は暇かな?』
まるで親しい友人にかけるような優しいその声色は、先程までクラスメイトに向けていたような冷たさは無い。
僕はその事にホッと安堵を漏らし、そして「はい、大丈夫です。」とその問いかけに回答を返した。
王様は僕を守ってくれたんだ。
変わりたいと言っても、力のない僕に、『王様の気にかけている後輩』という強みをくれた。
なんて強く、素晴らしい御人だろうか。
(……もっと、王様の役に立ちたい。)
いつの間にか僕にはそんな思いが湧いていた。