それ以来、理都と向田の関係はどうなったかというと、まずまずの進展を見せた。
理都のイメチェン姿が晒されるような事態もなく、毎日は単調に過ぎていった。いっそ肩透かしなくらいだ。
あれから理都は教室で服装を変えることはせず、人のいない多目的ホールに内緒で入って、一人だけのファッションショーを楽しんでいた。そこはほぼ空き教室になっており、授業の目的で使われる機会もめったになかった。理都は秘密の隠し部屋を見つけたような気分になっていた。
しかし、自分一人の楽園は、あっけなく終わりを迎える。
「音羽、いい話があるの」
神出鬼没の向田は、またもや理都の秘密基地を探し当て、天地がひっくり返るような話を持ちかけたのだ。
「文化祭のランウェイ、出てみない?」
理都は文字通り、ぽかんとした顔になった。およそ自分とは程遠い世界の話が降ってきて、何なら軽く昇天しかけた。
「ラ、ランウェイ……? 文化祭……? 選ばれた人間しか出られない、パリピしか歩くのを許されてない、あのランウェイ……?」
「いや、そんな大げさなものじゃないし」
向田が否定しても、理都にとっては文化祭の出し物の大目玉、生徒たちが作成した花道ステージに、生徒たちが自主制作したファッションを身にまとって登場するという企画自体、住む世界の違う住人たちにしか入れない話題である。
理都はとたんに目の前が真っ暗になっていく感覚を覚えた。
「いや、俺は、文化祭はサボる予定でして」
「青春してないなあ」
向田はあきれたように息を吐いた。
「音羽がメイクした写真、生徒会に見せたんだけどね」
「え、見せた? 嘘つき! バラさないって言ったのに!」
「まあまあ。不特定多数にバラしたわけじゃないから。それで、生徒会長が、けっこういい線いってるから文化祭の目玉企画、これで行こうって」
「はい?」
「音羽、出なよ。ランウェイ」
有無を言わせない向田の圧力。まるでこちらが断る選択肢など最初からないと言わんばかりに断定された台詞。彼女が女子の集団をまとめるリーダー格なのもうなずける。
どうしよう。絶対いじめられるじゃん、俺。
小さい頃から培われた被害妄想力とネガティブ思考をふんだんに使い、理都は絶句した。