あれから数日。

 理都はクラスの中心的な人気者になったかといえば、特になっていない。相変わらず、無口で、ぼうっとしていて、時々ドジを踏んで、先生に当てられた授業でとんちんかんな回答を言ったりする、いつも通りの音羽理都のままだった。

 しかしもう「音羽? 誰だっけ」なんて言う輩はいないし、「音羽―、ちょっとジュース買ってきてくれ」なんてパシリにするクラスメイトもいない。理都の人権とクラスでのポジションは、少しばかり向上した。

 理都は今日も、向田葉菜からもらった使用済みの深紅のリボンを、放課後にこっそり着用している。さらには向田が買ってプレゼントしてくれた色つきリップクリームとヘアピン、目元を少し盛れるクレヨンタイプのアイシャドウをささっと乗せ、江國や堀たちの前で素の自分をさらけ出している。他に誰もいない多目的ホールで。理都たちの秘密基地と化した、青春のたまり場で。

 音羽理都は、女の子たちが「可愛い」と認めるような、キラキラしたものが好きだ。

 いつか、そんな恰好で街中を歩いてみたい。あの時のランウェイのように、これが俺自身を表現するアイテムなのだと、俺はこれが好きなのだと、誇らしく生きたい。

 そんな時代は、きっともうすぐ来るに違いない。

 音羽理都は、リボンが好きだ。

 そして、リボンを好む、自分が好きだ。



   了



*キャラクター名 作家縛り

 音羽理都《おとわ りと》 *講談社
 向田葉菜《むこうだ はな》 *向田邦子
 江國《えくに》 *江國香織

 堀《ほり》 *堀辰雄
 福永《ふくなが》 *福永武彦