私の様子に驚いた先輩は、ポケットの中からハンカチを取り出した。
「香織ちゃん、大丈夫……?」
目の前にいる彼女が突然泣き出したら、そりゃだれでも驚くだろう。
私は急いで自分のポケットからハンカチを取り出すと、涙を拭った。先輩のハンカチを借りようかと思ったけれど、今日も暑いので、先輩が汗を拭けなくなったら大変だ。
「はい、大丈夫です……」
涙を拭い、私は再びパネルにされている写真を見つめた。
写真を見つめたまま、しばらくして私は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。そして、先輩に告げた。
「この写真の女子生徒……、私の亡くなった叔母なんです」
私の言葉に、先輩の動きが止まった。
「え……?」
先輩の反応に、私も頷いて答える。私も驚いているくらいだから、先輩が驚くのも無理はない。
「その女性……。叔母は私が生まれる前に亡くなっているので、直接会ったことはないんですけど、家に写真が飾ってあるのと、ここが母校だと聞いているので間違いないと思います」
私の言葉に、先輩は何と言葉を発すればいいか思案しているようだ。
「落合先生は、このことを……、私が菜摘の姪だとご存じなんでしょうか……?」
落合先生とは、クラスの副担任かつ写真部の顧問で接点はあるけれど、必要以上の会話を交わしたことはない。
先輩は、落合先生が撮影したポートレートと私を見比べている。私は叔母に面差しが似ているとよく言われている。小さい頃の写真もだけど、叔母が亡くなった年齢に近付いた今、ますます似てきたと母が言うくらいだ。なのできっと、落合先生も態度には出さないだけで、薄々は気付いているかもしれない。
「どうだろう……。写真の彼女が亡くなった時にはお姉さん――、香織ちゃんのお母さんは結婚されていたんだし、知ってたんじゃないかな。今でこそ普通に生活しているけれど、写真の彼女が亡くなってからは、だれとも付き合っていないし。母に聞いた話だと、彼女が亡くなってしばらくは、抜け殻みたいになっていたらしい」
先輩の言葉に、私は頷いた。
私が生まれる前の話だし、当事者ではないので想像の域を超えないけれど、大切な人が亡くなってしまったら、きっと私も抜け殻のようになってしまうだろう。
「私は……、叔母が亡くなってから私が生まれたので、直接会ったことないありません」
私は、ポツリポツリと自分の身の上を先輩に話すこととした。
「当時は、親戚たちが私のことを叔母の生まれ変わりじゃないかって話をしていたそうなんですけど……。写真の叔母の顔と私の顔、ちょっと似てますよね。それに加えて、私が小学生の頃交通事故に遭ったこともあり、両親は過保護になってしまって……。残された人間の、強い思想の元で、結構不自由もありました」
私の言葉に、先輩は耳を傾けている。
叔母を失った祖父母や母の悲しみは窺い知れない。けれど、私の誕生と同時に叔母の生まれ変わりと言われ、違和感しかなかった。
叔母が亡くなった原因である病気を持っていないか、遺伝はしていないか、小さいころ大きな病院で検査を受けたこともある。
ある程度成長して私に自我が生まれると、両親や祖父母は私に叔母の面影を探すことをやめ、一人の人間として見てくれるようになったけれど、あの交通事故のせいで過保護に拍車がかかってしまった。
今なら、病気や事故で身内を亡くしてしまうことを極端に恐れた結果だとわかる。けれどそれ以降、しばらくはどこへ行くにも送迎付き、もしくは行き先や帰宅時間を報告しなければならないといった窮屈な生活を強いられた。
「香織ちゃん、大丈夫……?」
目の前にいる彼女が突然泣き出したら、そりゃだれでも驚くだろう。
私は急いで自分のポケットからハンカチを取り出すと、涙を拭った。先輩のハンカチを借りようかと思ったけれど、今日も暑いので、先輩が汗を拭けなくなったら大変だ。
「はい、大丈夫です……」
涙を拭い、私は再びパネルにされている写真を見つめた。
写真を見つめたまま、しばらくして私は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。そして、先輩に告げた。
「この写真の女子生徒……、私の亡くなった叔母なんです」
私の言葉に、先輩の動きが止まった。
「え……?」
先輩の反応に、私も頷いて答える。私も驚いているくらいだから、先輩が驚くのも無理はない。
「その女性……。叔母は私が生まれる前に亡くなっているので、直接会ったことはないんですけど、家に写真が飾ってあるのと、ここが母校だと聞いているので間違いないと思います」
私の言葉に、先輩は何と言葉を発すればいいか思案しているようだ。
「落合先生は、このことを……、私が菜摘の姪だとご存じなんでしょうか……?」
落合先生とは、クラスの副担任かつ写真部の顧問で接点はあるけれど、必要以上の会話を交わしたことはない。
先輩は、落合先生が撮影したポートレートと私を見比べている。私は叔母に面差しが似ているとよく言われている。小さい頃の写真もだけど、叔母が亡くなった年齢に近付いた今、ますます似てきたと母が言うくらいだ。なのできっと、落合先生も態度には出さないだけで、薄々は気付いているかもしれない。
「どうだろう……。写真の彼女が亡くなった時にはお姉さん――、香織ちゃんのお母さんは結婚されていたんだし、知ってたんじゃないかな。今でこそ普通に生活しているけれど、写真の彼女が亡くなってからは、だれとも付き合っていないし。母に聞いた話だと、彼女が亡くなってしばらくは、抜け殻みたいになっていたらしい」
先輩の言葉に、私は頷いた。
私が生まれる前の話だし、当事者ではないので想像の域を超えないけれど、大切な人が亡くなってしまったら、きっと私も抜け殻のようになってしまうだろう。
「私は……、叔母が亡くなってから私が生まれたので、直接会ったことないありません」
私は、ポツリポツリと自分の身の上を先輩に話すこととした。
「当時は、親戚たちが私のことを叔母の生まれ変わりじゃないかって話をしていたそうなんですけど……。写真の叔母の顔と私の顔、ちょっと似てますよね。それに加えて、私が小学生の頃交通事故に遭ったこともあり、両親は過保護になってしまって……。残された人間の、強い思想の元で、結構不自由もありました」
私の言葉に、先輩は耳を傾けている。
叔母を失った祖父母や母の悲しみは窺い知れない。けれど、私の誕生と同時に叔母の生まれ変わりと言われ、違和感しかなかった。
叔母が亡くなった原因である病気を持っていないか、遺伝はしていないか、小さいころ大きな病院で検査を受けたこともある。
ある程度成長して私に自我が生まれると、両親や祖父母は私に叔母の面影を探すことをやめ、一人の人間として見てくれるようになったけれど、あの交通事故のせいで過保護に拍車がかかってしまった。
今なら、病気や事故で身内を亡くしてしまうことを極端に恐れた結果だとわかる。けれどそれ以降、しばらくはどこへ行くにも送迎付き、もしくは行き先や帰宅時間を報告しなければならないといった窮屈な生活を強いられた。