お互いの課題がある程度片付いて休憩中、先輩は立ち上がると棚に収納されている一冊のアルバムを取り出した。それは、歴代の先輩たちが撮影した写真が収められているものらしく、私は初めて見るものだ。
「昔の写真部って、アナログのカメラで撮影して、ここで現像していたらしいよ」
先輩の言葉に私は驚いた。
「え、どうやって現像するんですか? 全然想像がつかないんですけど……」
今はデジタルが主流だ。素人の私たちはスマホのカメラで充分こと足りる。なので、アナログの使い捨てカメラが市販されているけれど、実際に購入して使ったことはない。
「僕も泰兄から聞いた話だからよくわからないけれど、そこの物置にしている部屋が昔暗室だったらしくって、そこで写真を現像していたらしいんだ」
暗室というだけあり、そこには外から光を取り入れる窓はない。光が入らないように出入口を暗幕で覆い、現像液に印画紙を浸し、写真を現像するのだそうだ。
「カメラのフィルムは、ネガと呼ばれるデータにして、それを使って現像したり焼き増ししたりするらしいんだけど、僕も実際にやったことがなくて。詳しい説明ができなくてごめん」
そう言って、先輩は別のロッカーの中から年季の入った紙袋を取り出した。そこには何やら茶色く細長いものが入っている。
「これがアナログのネガ。これでどの写真を現像するか見たりするらしいよ」
光に透かしてみると、何かが写っているのが見える。
「すごい……、こんなものがあるんだ……」
写真のデータは、スマホの写真フォルダやパソコンのフォルダ内のものしか見たことがない。だからこそ、アナログ写真のネガがものすごく貴重なものに見える。
「これ、泰兄が学生のころに応募したコンテストで入賞した写真らしいよ。当時の、他の部員が撮影した写真のネガも、ここに保管してあるって」
先輩はそう言うと、元暗室だった物置部屋の中から大きなサイズのパネルを取り出した。
それは屋上だろうか、女子生徒が手すりに手を掛けているものだった。横顔は逆光でよく見えないけれど、私はその女子生徒の顔に見覚えがあった。
そう、それは若くして病気で亡くなった私の叔母、菜摘だったのだ。
驚いて声が出ない私に、先輩は驚く事実を口にする。
「この女の人、この後病気で亡くなっているんだけど、泰兄の彼女だった人なんだ」
落合先生が、菜摘さんの彼だというのは本当だったんだ……
「泰兄、口には出さないけれど、この彼女のことを今でも忘れられないみたいなんだよね」
その言葉を聞いて、私の瞼からは私の意思とは関係なく、一筋の涙がこぼれ落ちた。
叔母が亡くなった年に、入れ替わりのように私が生まれた。なので私は叔母に会ったことはない。そのせいか、叔母の話を聞いても実在した人なんだという実感はほとんどなかった。けれど、こうして家以外のところで叔母の痕跡を見つけると、彼女の生きた証を見つけると、なぜか胸が熱くなる。
写真の叔母は、微笑んでいる。きっとこの時にはもう、自分の寿命が尽きることを悟っていたのだろう。
叔母は笑顔を浮かべているけれど、その笑顔の裏にはどのような感情が隠されているのだろう。
落合先生が叔母の彼氏だったことも驚いたけれど、先生はこの時に、叔母の病気のことを知っていたのだろうか。もし、知っていたとしたら、どんな気持ちで叔母のことを撮影したのだろう。
「昔の写真部って、アナログのカメラで撮影して、ここで現像していたらしいよ」
先輩の言葉に私は驚いた。
「え、どうやって現像するんですか? 全然想像がつかないんですけど……」
今はデジタルが主流だ。素人の私たちはスマホのカメラで充分こと足りる。なので、アナログの使い捨てカメラが市販されているけれど、実際に購入して使ったことはない。
「僕も泰兄から聞いた話だからよくわからないけれど、そこの物置にしている部屋が昔暗室だったらしくって、そこで写真を現像していたらしいんだ」
暗室というだけあり、そこには外から光を取り入れる窓はない。光が入らないように出入口を暗幕で覆い、現像液に印画紙を浸し、写真を現像するのだそうだ。
「カメラのフィルムは、ネガと呼ばれるデータにして、それを使って現像したり焼き増ししたりするらしいんだけど、僕も実際にやったことがなくて。詳しい説明ができなくてごめん」
そう言って、先輩は別のロッカーの中から年季の入った紙袋を取り出した。そこには何やら茶色く細長いものが入っている。
「これがアナログのネガ。これでどの写真を現像するか見たりするらしいよ」
光に透かしてみると、何かが写っているのが見える。
「すごい……、こんなものがあるんだ……」
写真のデータは、スマホの写真フォルダやパソコンのフォルダ内のものしか見たことがない。だからこそ、アナログ写真のネガがものすごく貴重なものに見える。
「これ、泰兄が学生のころに応募したコンテストで入賞した写真らしいよ。当時の、他の部員が撮影した写真のネガも、ここに保管してあるって」
先輩はそう言うと、元暗室だった物置部屋の中から大きなサイズのパネルを取り出した。
それは屋上だろうか、女子生徒が手すりに手を掛けているものだった。横顔は逆光でよく見えないけれど、私はその女子生徒の顔に見覚えがあった。
そう、それは若くして病気で亡くなった私の叔母、菜摘だったのだ。
驚いて声が出ない私に、先輩は驚く事実を口にする。
「この女の人、この後病気で亡くなっているんだけど、泰兄の彼女だった人なんだ」
落合先生が、菜摘さんの彼だというのは本当だったんだ……
「泰兄、口には出さないけれど、この彼女のことを今でも忘れられないみたいなんだよね」
その言葉を聞いて、私の瞼からは私の意思とは関係なく、一筋の涙がこぼれ落ちた。
叔母が亡くなった年に、入れ替わりのように私が生まれた。なので私は叔母に会ったことはない。そのせいか、叔母の話を聞いても実在した人なんだという実感はほとんどなかった。けれど、こうして家以外のところで叔母の痕跡を見つけると、彼女の生きた証を見つけると、なぜか胸が熱くなる。
写真の叔母は、微笑んでいる。きっとこの時にはもう、自分の寿命が尽きることを悟っていたのだろう。
叔母は笑顔を浮かべているけれど、その笑顔の裏にはどのような感情が隠されているのだろう。
落合先生が叔母の彼氏だったことも驚いたけれど、先生はこの時に、叔母の病気のことを知っていたのだろうか。もし、知っていたとしたら、どんな気持ちで叔母のことを撮影したのだろう。