8月のどこかで

大田スタジアムの前には、大勢の人だかり。
けれど、もう、スタジアムの中にいるものもいた。
「山井。お前どうしたんだよ?お前ももうすぐ初戦だろ?」
「そんなのバックレたに決まってんじゃないですか。」
「まじか。お前も態度がデカくなったもんだな。」
「誰のおかげでしょうね。」
日車も山井も、スタジアムの中にいる。
その中でも、特段見やすい位置にいたのが。
「...もういるよ。」
「おま、何時から入った?」
「9時。」
「早すぎだろ...」
山井は、多少癪だが素直に橋本の隣に座る。
「素直に見るんですね。」
「まあな。」
「てっきり乗り込むことかと。」
「お前はほんと、俺への扱いが酷いな。」
「俺は許してないので。」
「根に持つタイプかよ。」
二人の仲は相変わらずだ。
「いいのか?他のやつとで。」
「いいんだよ。」
「特別な関係は、バッテリーだけじゃないんでな。」
「っは、みねぇうちに男前になりやがった。」


東峰は、いまは遠い位置にいるけれど、近い位置にいる。
おまえは、俺の前にはいないけれど、俺のミットには投げ込まないけども。
お前のなかに、俺がいて、俺の中に、お前がいる。
重いのは相変わらずだ。
けど、あの時よりも、空は澄んでいた。
空が色めく。
夏が始まる。
お前の得意な季節だろ。
その背中で。
証明してみろ。


8月のことを。