8月20日
蝉しぐれ、うるさき日。
生憎快晴。雨はふりやしない。暑いままであり。
夏は終わったというのに。
俺達の今年の夏は、昨日をもって終了した。
ただひたすらに、打ちひしがれた日。
あれほど地面にひれ伏した日はないというほど、俺は眼の前を見れなかった。
見たくなかった。
甲子園、敗退。
甲子園に出れただけでも名誉だ。それは変わらない。
けれど、もっと、と望んでしまう。
負けた日は、そりゃないた。わんさかないた。
その涙が、俺の感情のどれを指すのか、わからなかったけれど、色んな感情が絵の具が交じるようにまだらに混じっていって、ある統一した感情になった途端、方が外れたようにないてしまった。
なく意外できなかった。
先輩に掛ける言葉が、今の俺では、自分を落ち着かせるための言葉になってしまうような気がして。
俺は今年の、先輩は最後の。
最後、最期。
終わり、おわり
また、始まり。
俺達のバッテリーが終わった日。
俺と先輩が、別の道を進んでいく、始まりの日。
負けが決まったとき、俺は前の方を見れなかった。
先輩を、見たくなかった。
多分、前を向いていると思うから。
もう先輩が前を向いていて、俺だけが後悔しているようで、その予感から逃げたかった。
現実逃避にもほどがあると思う。
「東峰、何やってんだーいくぞ」
「おう」
「めずらしいな、お前が教室でぼーっとしてるなんて。」
「おいおい、俺を何だと思ってんだ?」
「ゴリラ、いや、オランウータンか?それかチンパンジーか...」
こいつ...真剣に悩んでやがる。
「どれも大外れさ少年。人間ならぼーっとするくらい日常茶飯事だろ?」
「気持ちわりぃこといいだすんじゃねーよ」
何事もない会話だ。他愛もない。けれど、いまはそれが心地よい。
「何かんがえてたんだ」
そう聞いてきた。軽く、深い。この空気を味方につけた、浅いふりした深い言葉。
「甲子園のことをな」
そう発せば、隣で軽快な音を鳴らしていた上履きが止まった。
「どうしたー?」
「...正気か」
「まさか」
「正気中の正気。大正気だよ。」
「いっとけ」
たちが悪い。いいたいことがあるなら言えばいいのに。
話せるのに。
「お前も変わったってことか。ある意味の成長」
「成長...」
果たして俺は変わったんだろうか。いや、
「悔しいか、負けて」
負けて...
そりゃもちろん
「悔しい。まじで悔しい。」
「だって、俺の渾身の一球。スライダーが打たれちまったんだぜ?あれはいいとこはいったと思ったのに...。そのあとも入リーさされるしよぉ」
すると、あいつは思いっ切り笑った。
けれど、すぐに小さな笑みに変わって
「そうか...おれはてっきり..」
「んだ?」
「いや、俺の勘がはずれたみてぇだ。」
「その勘は外れてよかったのか?」
「本当に安心すべきなんだが、少し複雑な心境に陥ってる自分もいるのが、腹立たしいところだな。」
「ほぉ...。大変だな。」
「誰のせいだと」
「どうするんだ、これから」
「どうするも何も、ただひたすら野球を「とぼけんじゃねぇよ」
低い声が廊下に響いた。
「わかってんだろ?何で避ける」
「なぁ、山井」
んぁ?とガラの悪い声が聞こえた。
「おれは、どうすればよいのだろうか。」
まるで、幽霊をみたかのような顔をしたあと、顔をしかめた。
「しらねぇーよ。てか、その口調やめろ」
とひとけり。
「男前ねぇ、山井くんは」
「キメェ」
こういうおとこだ、山井は。
「てか、前言撤回。やっぱ変わってねぇよ。いや、もとに戻っただけだったのか。さっき、前のときと似たような顔しながらこっち見てきやがって。」
調子狂うんだよほんと、と頭をかきながらいっていた。
「ごめんなぁ」
「何に謝ってんだよ、おまえはよっ」
そのまま脇にタックルを決められ、見事に倒れ込む。
「何してくれとんのじゃ我ぇぇぇぇぇぇぇ」
あいつの高笑いが聞こえる。
「そうそう、それそれ!辛気臭い面しやがって。おめぇにはそういう顔が似合ってるよ」
「どういうこと?」
「こっちのこと」
「そういうことじゃねぇよ!!!」
そう言っても、山井は止まることなくつきすすんでいく。
「助けてくれぇ、立てねぇね。」
「バカ言え。たてんだろ?エースさまがこんなんじゃ、うちも今年でおわりかね。
「あらよっと」
そうすぐさま立ってみせた。
「あ」
「え?」
急におれの後ろをむいて声を発した山井。
「おい東峰?なにやってんだよ、投手様がんなことしていいのか〜?」
ニマニマしながら聞いてくる橋本先輩。
「ご安心を。手はこのとおり、なんともありません!おれをなめるでナイ!」
「はいはい。そういうことにしといてやるよ」
「なっ!素直に『はい。わかりました。』といえないのか橋本爽斗!!!」
「うるせぇ」
そういって、俺達とは逆方向に歩いていった。
「うるせぇな」
「山井までか!!!」
流石に俺も傷つくぞといいかえそうとした。
「しっかし、お前とセンパイの関係って不思議だよな。」
「そうか?」
はたからみたらわかんねぇーし。と一言。
「気まずくなんねぇ?」
「いや?」
「ほーん」
「どうすんの?」
どうするって...
「だからわかんねぇーって「あきらめんの?」
あきらめ...あきらめ...?
「さぁ?」
「ばっか、そこはあきらめねぇよって言うもんなんだよ。」
うそでもよ。
果たして俺はどうしたいんだろうか。
どうこうしたいと思っているもんでもねぇし。
「いくぞー」
聞こえる声
「おう」
そう返す。
俺が高橋先輩を好きということは、野球部の皆知ってることだ。
蝉しぐれ、うるさき日。
生憎快晴。雨はふりやしない。暑いままであり。
夏は終わったというのに。
俺達の今年の夏は、昨日をもって終了した。
ただひたすらに、打ちひしがれた日。
あれほど地面にひれ伏した日はないというほど、俺は眼の前を見れなかった。
見たくなかった。
甲子園、敗退。
甲子園に出れただけでも名誉だ。それは変わらない。
けれど、もっと、と望んでしまう。
負けた日は、そりゃないた。わんさかないた。
その涙が、俺の感情のどれを指すのか、わからなかったけれど、色んな感情が絵の具が交じるようにまだらに混じっていって、ある統一した感情になった途端、方が外れたようにないてしまった。
なく意外できなかった。
先輩に掛ける言葉が、今の俺では、自分を落ち着かせるための言葉になってしまうような気がして。
俺は今年の、先輩は最後の。
最後、最期。
終わり、おわり
また、始まり。
俺達のバッテリーが終わった日。
俺と先輩が、別の道を進んでいく、始まりの日。
負けが決まったとき、俺は前の方を見れなかった。
先輩を、見たくなかった。
多分、前を向いていると思うから。
もう先輩が前を向いていて、俺だけが後悔しているようで、その予感から逃げたかった。
現実逃避にもほどがあると思う。
「東峰、何やってんだーいくぞ」
「おう」
「めずらしいな、お前が教室でぼーっとしてるなんて。」
「おいおい、俺を何だと思ってんだ?」
「ゴリラ、いや、オランウータンか?それかチンパンジーか...」
こいつ...真剣に悩んでやがる。
「どれも大外れさ少年。人間ならぼーっとするくらい日常茶飯事だろ?」
「気持ちわりぃこといいだすんじゃねーよ」
何事もない会話だ。他愛もない。けれど、いまはそれが心地よい。
「何かんがえてたんだ」
そう聞いてきた。軽く、深い。この空気を味方につけた、浅いふりした深い言葉。
「甲子園のことをな」
そう発せば、隣で軽快な音を鳴らしていた上履きが止まった。
「どうしたー?」
「...正気か」
「まさか」
「正気中の正気。大正気だよ。」
「いっとけ」
たちが悪い。いいたいことがあるなら言えばいいのに。
話せるのに。
「お前も変わったってことか。ある意味の成長」
「成長...」
果たして俺は変わったんだろうか。いや、
「悔しいか、負けて」
負けて...
そりゃもちろん
「悔しい。まじで悔しい。」
「だって、俺の渾身の一球。スライダーが打たれちまったんだぜ?あれはいいとこはいったと思ったのに...。そのあとも入リーさされるしよぉ」
すると、あいつは思いっ切り笑った。
けれど、すぐに小さな笑みに変わって
「そうか...おれはてっきり..」
「んだ?」
「いや、俺の勘がはずれたみてぇだ。」
「その勘は外れてよかったのか?」
「本当に安心すべきなんだが、少し複雑な心境に陥ってる自分もいるのが、腹立たしいところだな。」
「ほぉ...。大変だな。」
「誰のせいだと」
「どうするんだ、これから」
「どうするも何も、ただひたすら野球を「とぼけんじゃねぇよ」
低い声が廊下に響いた。
「わかってんだろ?何で避ける」
「なぁ、山井」
んぁ?とガラの悪い声が聞こえた。
「おれは、どうすればよいのだろうか。」
まるで、幽霊をみたかのような顔をしたあと、顔をしかめた。
「しらねぇーよ。てか、その口調やめろ」
とひとけり。
「男前ねぇ、山井くんは」
「キメェ」
こういうおとこだ、山井は。
「てか、前言撤回。やっぱ変わってねぇよ。いや、もとに戻っただけだったのか。さっき、前のときと似たような顔しながらこっち見てきやがって。」
調子狂うんだよほんと、と頭をかきながらいっていた。
「ごめんなぁ」
「何に謝ってんだよ、おまえはよっ」
そのまま脇にタックルを決められ、見事に倒れ込む。
「何してくれとんのじゃ我ぇぇぇぇぇぇぇ」
あいつの高笑いが聞こえる。
「そうそう、それそれ!辛気臭い面しやがって。おめぇにはそういう顔が似合ってるよ」
「どういうこと?」
「こっちのこと」
「そういうことじゃねぇよ!!!」
そう言っても、山井は止まることなくつきすすんでいく。
「助けてくれぇ、立てねぇね。」
「バカ言え。たてんだろ?エースさまがこんなんじゃ、うちも今年でおわりかね。
「あらよっと」
そうすぐさま立ってみせた。
「あ」
「え?」
急におれの後ろをむいて声を発した山井。
「おい東峰?なにやってんだよ、投手様がんなことしていいのか〜?」
ニマニマしながら聞いてくる橋本先輩。
「ご安心を。手はこのとおり、なんともありません!おれをなめるでナイ!」
「はいはい。そういうことにしといてやるよ」
「なっ!素直に『はい。わかりました。』といえないのか橋本爽斗!!!」
「うるせぇ」
そういって、俺達とは逆方向に歩いていった。
「うるせぇな」
「山井までか!!!」
流石に俺も傷つくぞといいかえそうとした。
「しっかし、お前とセンパイの関係って不思議だよな。」
「そうか?」
はたからみたらわかんねぇーし。と一言。
「気まずくなんねぇ?」
「いや?」
「ほーん」
「どうすんの?」
どうするって...
「だからわかんねぇーって「あきらめんの?」
あきらめ...あきらめ...?
「さぁ?」
「ばっか、そこはあきらめねぇよって言うもんなんだよ。」
うそでもよ。
果たして俺はどうしたいんだろうか。
どうこうしたいと思っているもんでもねぇし。
「いくぞー」
聞こえる声
「おう」
そう返す。
俺が高橋先輩を好きということは、野球部の皆知ってることだ。