「お腹すいちゃった」
「セコマ、行く? 近くにあったよ」
「セコマ、行ってみたい!」
うんうんっと頷くから、二人で着替えて部屋を出る。夕飯が終わったのか、温泉に向かう人たちが目の前を歩いていた。先ほどのおしゃべりなご婦人も見つけて、ぺこりとお辞儀だけをしておく。
ご婦人は、ご友人ね! と言いたげな顔で、うんうん頷いている。二人で一緒に温泉に行くとでも思われたのだろう。ごまかすのも、答えるのも、どちらでもいい気がして、にこぉっと苦手な笑顔を作っておいた。
フロントから外に出れば、ひんやりとした風が吹く。夜の色が濃くなった山は、少しだけ恐ろしい。
「山の間だとこんなに涼しいんだね」
あれほど無口になっていた文香が、いつも通りの口調で話し出す。私たちの手は、繋がれたまま、ぷらぷらと間を揺れている。
「ね、夏なのにね」
「9月は秋じゃない?」
「そうかも。ってか、半袖寒くない? 大丈夫?」
文香の格好に気づいて、上着を脱ごうとすれば首をふるふると横に振られた。私は体温調整ができるように、いつだって長袖を着る習慣が身についている。出かけることが多くなったからこその、習慣だけど。
「北海道の寒さを体感しておこうと思って」
明かりも少ない夜道を二人で、パタパタと足音を立てながら歩く。大人になってからこんな時間ができるだなんて、思わなかったな。私は人と繋がることなく、生きていくと思い込んでいたし。
傷ついてる文香を知ってしまったから、というのはあったけど。文香と二人で旅をするのは存外楽しいかもしれない。気を遣ってくれてるからかもしれないが。
セイコーマートのオレンジ色のネオンに惹かれるように、足が進む。ホットシェフと書かれた看板に、文香は嬉しそうな声をあげた。
「憧れだったんだよね」
「なにが?」
「ホットシェフ食べるの。修学旅行でコンビニなんてみんな行かないじゃん」
あの時も、確かに行かなかった。というか、そもそもセイコーマートというものがそこまで有名ではなかった。あまり見たことのないコンビニだなぁ、くらい。
二人でコンビニの中に滑り込めば、見たことのないカップラーメン。パン、お菓子などが並べられている。ジュースすら、見たことのない列があった。
「オレンジソーダだって」
「また、炭酸飲んじゃう? 結梨得意じゃないくせに」
「大人になってからは、結構飲むようになったし」
いつも通りの軽いやりとりに、私の心まで浮かび上がる。文香は、ふふっといつもの表情で笑った。痩せこけた頬は気になるけど、空虚な目ではなくなったことに安堵する。そして「こっちこっち」と腕を引かれた。
目の前に並ぶスナックの数々に、目を右往左往させる。でっかいおにぎりに、フライドチキン、からあげ。カツ丼やカレーライスまであった。
夜も深くなってきた時間だと言うのに、品揃えが素晴らしい。一品につき、一つくらいしか残ってはいないけど。
「どれにする?」
「文香は、食べれそう?」
「いっぱいは、やっぱり、無理かな」
「じゃあ、残ったの全部食べるから。食べたいの選びなよ」
自慢じゃないが、どれだけでも食べられる気がする。私はどちらかといえば、大食いだと言うことに気づいたのは大人になってからだった。それでも、文香の前ではいつも通り食べられるけど。文香はしゃがみこんで、うーんっと悩み始める。
これも選んであげた方が良いのだろうか。
一瞬過った考えを頭を振って、打ち消す。今、文香は楽しそうに目を輝かせている。これは、きっと選びたいことだ。
「私ジュースとかお菓子、適当に買ってくるね」
「うん」
まっすぐとホットスナックに目を奪われたまま、文香が頷く。私だって、選ぶのは得意じゃない。でもそれは、相手に気を遣う場合だ。文香となら、すんなりと選べる気がした。何を選んでも、否定だけはしないから。
オレンジソーダと、ガラナをカゴに入れてから、お菓子のコーナーを見て回る。チョコレート系が好きだったよな、と思いながらいつものチョコスナックを放り込んだ。
べこ餅と書かれた茶色と白色のお餅に、目が吸い寄せられる。見たことのないお菓子だった。せっかく北海道に来たのだから、北海道らしいものも買っておこう。
ぽんぽんっと二つほどカゴに入れれば、選び終わったのか文香が両手いっぱいに商品を持って近づいてくる。
「フライドチキンと、おにぎり明太子マヨと鮭。あと、パスタ、これで百二十円だよ安すぎない?」
パスタは二種類。ペペロンチーノとカルボナーラ。確かに値札には、百二十円と記載されてる。北海道に住んでいたら、多分私毎日のように買いに来てた。文香も同じ考えだったようで「北海道はいいなぁ」と、口にしている。
買い終わったビニール袋をぷらぷらと間で揺らしながら、ホテルへと戻る。川の流れる音が、微かに耳に聞こえた。瞬間、強い風が緑を巻き上げて、濃い匂いを撒き散らす。
「なんか、いいね、自然の中にいるって感じ。抱きしめられてるみたい」
ぽつりと文香が呟いて、瞳を擦った。文香らしい情緒的な表現に、胸がぎゅうっと締め付けられる。私は、文香の美しい言葉が好きだった。恥ずかしくなるような本心的な文章が好きだった。やっぱり、書いていて欲しい。私を書く道に引きずり込んだのだから、という考えもなくはないけど。
「やっぱさ、北海道のこと、ブログでもSNSいいから書いてみなよ」
「えー、でも、うん、ちょっとだけ、書いてみたいかも」
「よっし、じゃあ、食べたらさっそくアカウント作ろう」
「あるよ、SNSのアカウントくらい」
「見られて嫌な人、いない? 元彼と繋がってる人とか」
私の言葉に一瞬、文香は息を呑む。少しだけ考えてから、満点の星空を見上げた。そして、「やっぱ新しく作る」と頷く。
どうしようもなく、嬉しくなって、スキップしたくなる。どうしてだろう。文香の文章がまた読めることが嬉しいのか、文香が前を向いてくれてる気がするのが、嬉しいのか。自分でも、よくわからない。
ホテルのレンジを借りて、買ってきたものを温めてから部屋に戻った。とりあえず全て文香の前に並べれば、めんたいマヨおにぎりだけは、私の前に差し出される。
「これは最初から結梨の分」
「え、そうだったの?」
「めんたいマヨ。学食でおばちゃんが握ってくれてたのよく食べてたでしょ」
文香の言葉に、そんな前のことをよく覚えているなと感心してしまう。確かに、私はおばちゃんのおにぎりばかり食べていた。両手ほどのサイズがあるのに、たった百円。具材は好きなものを選ばせてくれて、いつも明太マヨにしていた。
懐かしさに、胸がいっぱいになる。おにぎりを手に持てば、ずっしりとした重みがあの時の重さに似ていた。
はむっと一口頬張れば、お米がほろりと崩れる。おばちゃんのおにぎりに似てる優しさに、塩気が強くなった。
文香はフライドチキンを一口、ちみちみと齧りながらごくんっと飲み干す。心配になりながら見つめていたけど、食べられる量は自分でわかるらしい。
「あとはあげる」
そう言って、残り四個くらい入ったケースを渡される。私もフライドチキンを口に放り込めば、じゅわりと油が弾けた。遠くの方に感じるマヨネーズの味が、おいしい。
強烈なニンニクの匂いに顔を上げれば、文香はペペロンチーノを開けていた。くるくると器用に巻いて口に運ぶ。大きめな鶏肉が入っていて食べごたえがありそうだ。
「鶏肉がおいしいんだけど」
「私も私も」
あーんっと口を開ければ、文香はしょうがないなと言う顔をして、フォークでパスタを巻いてくれる。口に入ってきた瞬間、鼻の奥にニンニクが突き抜けていく。ガッツリ目の味に、パスタをおかずに白米を食べられそうだなと思ってしまう。
「おいしいねぇ、文香的にはどう?」
「これならもうちょっと食べられるかも」
そう言いながら、手を進めて1/3ほど食べ進める。私は文香を見ながら、おにぎりを全て平らげていた。フライドチキンも、あと二つにまで減っている。
「カルボナーラ、私食べて良い?」
開けながら問い掛ければ、文香はこくんっと頷く。もうお腹いっぱいとでも言うように、軽く胃の辺りを撫でてから。あまり食べていなかったことを実感してしまって、気づかないふりをした。
カルボナーラもこってり濃厚で、おいしい。牛乳がおいしいからだろうか。こってりな割には食べやすい気がする。
「一口だけちょーだい」
文香があーんとするから、くるくると巻いて口に入れてやる。幼い雛鳥に餌付けをしてるみたいで、ちょっとだけ背中がゾワゾワとした。
「おいしい! でも、もうお腹いっぱい。結梨食べれる?」
机の上の大量の料理を、文香は困ったように見つめた。私のお腹は、まだまた入る。無理をしてるわけでもなく、お腹が空いてると言うほどでもないけど。
「全部いける!」
文香は安心したように、「任せた」と私の前に全て並べた。ペペロンチーノ、カルボナーラ、鮭のおにぎり。時々フライドチキン、と次から次へとお腹に収めていく。
北海道のご飯はやっぱり美味しい。コンビニのごはんでこんなに美味しいんだから、羨ましいな。もういっそのこと、北海道に移住してしまっても良い気がする。雪が降るのだけは,怖いけど。
全て食べ切って、お腹いっぱいで寝転がれば、文香も隣に寝そべる。そして、改めて私の手を握って感謝を口にしだした。
「連れ出してくれて、ありがと」
「なに、急に」
「結梨と会えてなかったら、私どうなってたかなって考えちゃって」
ぽつり、ぽつりとこぼす言葉を濁すように、曖昧にするように笑う。私はだって、感謝されるような人間じゃない。文香のことを忘れていたわけではないけど、連絡が来なければ、しない程度の人間だ。
「色々考えてるの読めるけど、感謝してるよ」
文香の言葉を素直に受け取れないまま、眠気が襲ってくる。温泉にも浸かって、お腹もいっぱいになってしまったせいだろうか。感謝されても、私は文香に何もできていない。地雷は簡単に踏み抜くし、勝手なことばかり言うし、文香のこと忘れてた日々だって過ごしてきた……
「セコマ、行く? 近くにあったよ」
「セコマ、行ってみたい!」
うんうんっと頷くから、二人で着替えて部屋を出る。夕飯が終わったのか、温泉に向かう人たちが目の前を歩いていた。先ほどのおしゃべりなご婦人も見つけて、ぺこりとお辞儀だけをしておく。
ご婦人は、ご友人ね! と言いたげな顔で、うんうん頷いている。二人で一緒に温泉に行くとでも思われたのだろう。ごまかすのも、答えるのも、どちらでもいい気がして、にこぉっと苦手な笑顔を作っておいた。
フロントから外に出れば、ひんやりとした風が吹く。夜の色が濃くなった山は、少しだけ恐ろしい。
「山の間だとこんなに涼しいんだね」
あれほど無口になっていた文香が、いつも通りの口調で話し出す。私たちの手は、繋がれたまま、ぷらぷらと間を揺れている。
「ね、夏なのにね」
「9月は秋じゃない?」
「そうかも。ってか、半袖寒くない? 大丈夫?」
文香の格好に気づいて、上着を脱ごうとすれば首をふるふると横に振られた。私は体温調整ができるように、いつだって長袖を着る習慣が身についている。出かけることが多くなったからこその、習慣だけど。
「北海道の寒さを体感しておこうと思って」
明かりも少ない夜道を二人で、パタパタと足音を立てながら歩く。大人になってからこんな時間ができるだなんて、思わなかったな。私は人と繋がることなく、生きていくと思い込んでいたし。
傷ついてる文香を知ってしまったから、というのはあったけど。文香と二人で旅をするのは存外楽しいかもしれない。気を遣ってくれてるからかもしれないが。
セイコーマートのオレンジ色のネオンに惹かれるように、足が進む。ホットシェフと書かれた看板に、文香は嬉しそうな声をあげた。
「憧れだったんだよね」
「なにが?」
「ホットシェフ食べるの。修学旅行でコンビニなんてみんな行かないじゃん」
あの時も、確かに行かなかった。というか、そもそもセイコーマートというものがそこまで有名ではなかった。あまり見たことのないコンビニだなぁ、くらい。
二人でコンビニの中に滑り込めば、見たことのないカップラーメン。パン、お菓子などが並べられている。ジュースすら、見たことのない列があった。
「オレンジソーダだって」
「また、炭酸飲んじゃう? 結梨得意じゃないくせに」
「大人になってからは、結構飲むようになったし」
いつも通りの軽いやりとりに、私の心まで浮かび上がる。文香は、ふふっといつもの表情で笑った。痩せこけた頬は気になるけど、空虚な目ではなくなったことに安堵する。そして「こっちこっち」と腕を引かれた。
目の前に並ぶスナックの数々に、目を右往左往させる。でっかいおにぎりに、フライドチキン、からあげ。カツ丼やカレーライスまであった。
夜も深くなってきた時間だと言うのに、品揃えが素晴らしい。一品につき、一つくらいしか残ってはいないけど。
「どれにする?」
「文香は、食べれそう?」
「いっぱいは、やっぱり、無理かな」
「じゃあ、残ったの全部食べるから。食べたいの選びなよ」
自慢じゃないが、どれだけでも食べられる気がする。私はどちらかといえば、大食いだと言うことに気づいたのは大人になってからだった。それでも、文香の前ではいつも通り食べられるけど。文香はしゃがみこんで、うーんっと悩み始める。
これも選んであげた方が良いのだろうか。
一瞬過った考えを頭を振って、打ち消す。今、文香は楽しそうに目を輝かせている。これは、きっと選びたいことだ。
「私ジュースとかお菓子、適当に買ってくるね」
「うん」
まっすぐとホットスナックに目を奪われたまま、文香が頷く。私だって、選ぶのは得意じゃない。でもそれは、相手に気を遣う場合だ。文香となら、すんなりと選べる気がした。何を選んでも、否定だけはしないから。
オレンジソーダと、ガラナをカゴに入れてから、お菓子のコーナーを見て回る。チョコレート系が好きだったよな、と思いながらいつものチョコスナックを放り込んだ。
べこ餅と書かれた茶色と白色のお餅に、目が吸い寄せられる。見たことのないお菓子だった。せっかく北海道に来たのだから、北海道らしいものも買っておこう。
ぽんぽんっと二つほどカゴに入れれば、選び終わったのか文香が両手いっぱいに商品を持って近づいてくる。
「フライドチキンと、おにぎり明太子マヨと鮭。あと、パスタ、これで百二十円だよ安すぎない?」
パスタは二種類。ペペロンチーノとカルボナーラ。確かに値札には、百二十円と記載されてる。北海道に住んでいたら、多分私毎日のように買いに来てた。文香も同じ考えだったようで「北海道はいいなぁ」と、口にしている。
買い終わったビニール袋をぷらぷらと間で揺らしながら、ホテルへと戻る。川の流れる音が、微かに耳に聞こえた。瞬間、強い風が緑を巻き上げて、濃い匂いを撒き散らす。
「なんか、いいね、自然の中にいるって感じ。抱きしめられてるみたい」
ぽつりと文香が呟いて、瞳を擦った。文香らしい情緒的な表現に、胸がぎゅうっと締め付けられる。私は、文香の美しい言葉が好きだった。恥ずかしくなるような本心的な文章が好きだった。やっぱり、書いていて欲しい。私を書く道に引きずり込んだのだから、という考えもなくはないけど。
「やっぱさ、北海道のこと、ブログでもSNSいいから書いてみなよ」
「えー、でも、うん、ちょっとだけ、書いてみたいかも」
「よっし、じゃあ、食べたらさっそくアカウント作ろう」
「あるよ、SNSのアカウントくらい」
「見られて嫌な人、いない? 元彼と繋がってる人とか」
私の言葉に一瞬、文香は息を呑む。少しだけ考えてから、満点の星空を見上げた。そして、「やっぱ新しく作る」と頷く。
どうしようもなく、嬉しくなって、スキップしたくなる。どうしてだろう。文香の文章がまた読めることが嬉しいのか、文香が前を向いてくれてる気がするのが、嬉しいのか。自分でも、よくわからない。
ホテルのレンジを借りて、買ってきたものを温めてから部屋に戻った。とりあえず全て文香の前に並べれば、めんたいマヨおにぎりだけは、私の前に差し出される。
「これは最初から結梨の分」
「え、そうだったの?」
「めんたいマヨ。学食でおばちゃんが握ってくれてたのよく食べてたでしょ」
文香の言葉に、そんな前のことをよく覚えているなと感心してしまう。確かに、私はおばちゃんのおにぎりばかり食べていた。両手ほどのサイズがあるのに、たった百円。具材は好きなものを選ばせてくれて、いつも明太マヨにしていた。
懐かしさに、胸がいっぱいになる。おにぎりを手に持てば、ずっしりとした重みがあの時の重さに似ていた。
はむっと一口頬張れば、お米がほろりと崩れる。おばちゃんのおにぎりに似てる優しさに、塩気が強くなった。
文香はフライドチキンを一口、ちみちみと齧りながらごくんっと飲み干す。心配になりながら見つめていたけど、食べられる量は自分でわかるらしい。
「あとはあげる」
そう言って、残り四個くらい入ったケースを渡される。私もフライドチキンを口に放り込めば、じゅわりと油が弾けた。遠くの方に感じるマヨネーズの味が、おいしい。
強烈なニンニクの匂いに顔を上げれば、文香はペペロンチーノを開けていた。くるくると器用に巻いて口に運ぶ。大きめな鶏肉が入っていて食べごたえがありそうだ。
「鶏肉がおいしいんだけど」
「私も私も」
あーんっと口を開ければ、文香はしょうがないなと言う顔をして、フォークでパスタを巻いてくれる。口に入ってきた瞬間、鼻の奥にニンニクが突き抜けていく。ガッツリ目の味に、パスタをおかずに白米を食べられそうだなと思ってしまう。
「おいしいねぇ、文香的にはどう?」
「これならもうちょっと食べられるかも」
そう言いながら、手を進めて1/3ほど食べ進める。私は文香を見ながら、おにぎりを全て平らげていた。フライドチキンも、あと二つにまで減っている。
「カルボナーラ、私食べて良い?」
開けながら問い掛ければ、文香はこくんっと頷く。もうお腹いっぱいとでも言うように、軽く胃の辺りを撫でてから。あまり食べていなかったことを実感してしまって、気づかないふりをした。
カルボナーラもこってり濃厚で、おいしい。牛乳がおいしいからだろうか。こってりな割には食べやすい気がする。
「一口だけちょーだい」
文香があーんとするから、くるくると巻いて口に入れてやる。幼い雛鳥に餌付けをしてるみたいで、ちょっとだけ背中がゾワゾワとした。
「おいしい! でも、もうお腹いっぱい。結梨食べれる?」
机の上の大量の料理を、文香は困ったように見つめた。私のお腹は、まだまた入る。無理をしてるわけでもなく、お腹が空いてると言うほどでもないけど。
「全部いける!」
文香は安心したように、「任せた」と私の前に全て並べた。ペペロンチーノ、カルボナーラ、鮭のおにぎり。時々フライドチキン、と次から次へとお腹に収めていく。
北海道のご飯はやっぱり美味しい。コンビニのごはんでこんなに美味しいんだから、羨ましいな。もういっそのこと、北海道に移住してしまっても良い気がする。雪が降るのだけは,怖いけど。
全て食べ切って、お腹いっぱいで寝転がれば、文香も隣に寝そべる。そして、改めて私の手を握って感謝を口にしだした。
「連れ出してくれて、ありがと」
「なに、急に」
「結梨と会えてなかったら、私どうなってたかなって考えちゃって」
ぽつり、ぽつりとこぼす言葉を濁すように、曖昧にするように笑う。私はだって、感謝されるような人間じゃない。文香のことを忘れていたわけではないけど、連絡が来なければ、しない程度の人間だ。
「色々考えてるの読めるけど、感謝してるよ」
文香の言葉を素直に受け取れないまま、眠気が襲ってくる。温泉にも浸かって、お腹もいっぱいになってしまったせいだろうか。感謝されても、私は文香に何もできていない。地雷は簡単に踏み抜くし、勝手なことばかり言うし、文香のこと忘れてた日々だって過ごしてきた……