赤ペンの指輪は風呂にはいったら消えてしまった。
赤い糸が切れたぞと小指の画像を送ったら、次の日に赤い刺繍糸で編んだものを小指にはめられた。
「これで消えないだろう?」
そういうと口角をあげる。
「消えねぇけど目立つだろうが」
「お揃いのリングを買うまで我慢しろ」
まさかリングを買おうと思っていたなんて。嬉しい、でも気恥ずかしさから素直にそうとはいえずに、
「はめねぇからな」
可愛くない態度をとってしまった。それでも橋沼は気にすることなくスマートフォンの画面をこちらへと向けた。
「秀次が好きそうなのみつけたんだけどな」
「うっ」
確かに好みのデザインだった。
「気に入ったようだな」
「あぁ? どうしたらそう思えんだよ」
顔が緩まないようにと画面を睨んでいるのに。もしや喜びが押さえきれずに顔に出てしまったか。
おかしいなと頬を掴んで動かしてみれば、
「可愛なぁ」
頬を掴んでいる田中の手へ、橋沼が手を重ねて動かした。
「ちょっと、ふにふにとしすぎ」
「ひよこ口」
今度は押しつぶされて、やめろと手を動かした。
「なんなんだよ」
「秀次のことをかまいたくて」
「だぁ、俺のシャツのボタンをちゃっかり外してんじゃねぇよ」
油断も隙もない。やめさせようと橋沼の手をつかむが、
「上半身を描こうかと」
傍に置いてあるスケッチブックを広げてみせる。
弁当のおかず、食いかけのパン、手、唇、シャツの隙間からのぞく鎖骨、まさかと橋沼をみれば田中を指さす。
「なに描いてんだよ」
「秀次」
シャツの隙間から橋沼の手が田中の肌をなでる。
「おぉい、誰が触ってイイといった」
「え、触るだろ?」
当然だろうと目を瞬かせる。油断も隙もない。
「これ以上触るなら膝十字固めだからな!」
「わかったよ」
本気で怒らせると察したか、しつこくすることなく手が離れた。
シャツのボタンを止め、
「総一さんはマテを覚えような」
まるでワンコにマテをさせるように顔の前に掌を向けた。
「ワンワン」
橋沼がふざけて犬のふりをし、首の付け根に鼻を近づける。それがくすぐったい。
「あははは、ずいぶんとデカい犬だな」
頭をなでて抱きしめると、ふ、と表情が真面目なものへとかわる。
「秀次のそういうところだよ、俺が我慢できなくなるのは」
そういうところとはどこなのだろうか。自分では全然わからない。
「いわなきゃわかんねぇよ」
橋沼の頭をかき混ぜるように撫でると、首にぬるりとした感触があり、舐められたと気が付いて頭を放した。
「ちょっと!」
ふざけてないで答えろと睨みつければ、唇を舐める橋沼の姿が目に入る。
得物を前に襲う気満々の肉食獣のようだ。
「膝十字固めっ」
技を掛けてやるつもりが言葉しかでてきない。動揺しているせいかもしれない。
「やってほしいのか」
と逆に技を掛けられそうになる。
「そんなわけあるか」
ひとまず橋沼から離れようと一歩後ろへ下がるが、
「隙だらけで押しに弱く、少し天然なところが好きだぞ」
そういわれてムッときた。
悔しまみれに技を掛けに向かえば、そのまま床に押さえ込まれてしまう。
「くそ、重すぎ」
しかも、ワン・ツー・スリーとカウントを取りはじめて、
「俺の勝ちだな」
と口角をあげて、
「勝利のキス」
自分の唇を指でとんと叩き、田中にキスをと催促する。
全ての面で橋沼には敵わないだろう。
だが、悔しくはない。愛しい人なのだから。
「はいはい、おめでとさーん」
田中は首に腕を回すと橋沼の唇へ勝利のキスを贈った。
<了>
赤い糸が切れたぞと小指の画像を送ったら、次の日に赤い刺繍糸で編んだものを小指にはめられた。
「これで消えないだろう?」
そういうと口角をあげる。
「消えねぇけど目立つだろうが」
「お揃いのリングを買うまで我慢しろ」
まさかリングを買おうと思っていたなんて。嬉しい、でも気恥ずかしさから素直にそうとはいえずに、
「はめねぇからな」
可愛くない態度をとってしまった。それでも橋沼は気にすることなくスマートフォンの画面をこちらへと向けた。
「秀次が好きそうなのみつけたんだけどな」
「うっ」
確かに好みのデザインだった。
「気に入ったようだな」
「あぁ? どうしたらそう思えんだよ」
顔が緩まないようにと画面を睨んでいるのに。もしや喜びが押さえきれずに顔に出てしまったか。
おかしいなと頬を掴んで動かしてみれば、
「可愛なぁ」
頬を掴んでいる田中の手へ、橋沼が手を重ねて動かした。
「ちょっと、ふにふにとしすぎ」
「ひよこ口」
今度は押しつぶされて、やめろと手を動かした。
「なんなんだよ」
「秀次のことをかまいたくて」
「だぁ、俺のシャツのボタンをちゃっかり外してんじゃねぇよ」
油断も隙もない。やめさせようと橋沼の手をつかむが、
「上半身を描こうかと」
傍に置いてあるスケッチブックを広げてみせる。
弁当のおかず、食いかけのパン、手、唇、シャツの隙間からのぞく鎖骨、まさかと橋沼をみれば田中を指さす。
「なに描いてんだよ」
「秀次」
シャツの隙間から橋沼の手が田中の肌をなでる。
「おぉい、誰が触ってイイといった」
「え、触るだろ?」
当然だろうと目を瞬かせる。油断も隙もない。
「これ以上触るなら膝十字固めだからな!」
「わかったよ」
本気で怒らせると察したか、しつこくすることなく手が離れた。
シャツのボタンを止め、
「総一さんはマテを覚えような」
まるでワンコにマテをさせるように顔の前に掌を向けた。
「ワンワン」
橋沼がふざけて犬のふりをし、首の付け根に鼻を近づける。それがくすぐったい。
「あははは、ずいぶんとデカい犬だな」
頭をなでて抱きしめると、ふ、と表情が真面目なものへとかわる。
「秀次のそういうところだよ、俺が我慢できなくなるのは」
そういうところとはどこなのだろうか。自分では全然わからない。
「いわなきゃわかんねぇよ」
橋沼の頭をかき混ぜるように撫でると、首にぬるりとした感触があり、舐められたと気が付いて頭を放した。
「ちょっと!」
ふざけてないで答えろと睨みつければ、唇を舐める橋沼の姿が目に入る。
得物を前に襲う気満々の肉食獣のようだ。
「膝十字固めっ」
技を掛けてやるつもりが言葉しかでてきない。動揺しているせいかもしれない。
「やってほしいのか」
と逆に技を掛けられそうになる。
「そんなわけあるか」
ひとまず橋沼から離れようと一歩後ろへ下がるが、
「隙だらけで押しに弱く、少し天然なところが好きだぞ」
そういわれてムッときた。
悔しまみれに技を掛けに向かえば、そのまま床に押さえ込まれてしまう。
「くそ、重すぎ」
しかも、ワン・ツー・スリーとカウントを取りはじめて、
「俺の勝ちだな」
と口角をあげて、
「勝利のキス」
自分の唇を指でとんと叩き、田中にキスをと催促する。
全ての面で橋沼には敵わないだろう。
だが、悔しくはない。愛しい人なのだから。
「はいはい、おめでとさーん」
田中は首に腕を回すと橋沼の唇へ勝利のキスを贈った。
<了>