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「ただいまー」
 すずなは玄関の扉を開けると、中の人々に声をかけた。

「おかえりー」
 奥から蛍が出てくる。その後ろに恭子の姿もあった。

「お帰りなさい。お邪魔してます」
 恭子は自分で持参したと思われるエプロンをつけていた。

「お鍋いい感じにできてるよー。恭子さんの手際が良すぎてびっくりしちゃった」

「ごめん、急に一人増えることになっちゃって」
 すずなは、後ろにいる結愛に部屋の中に入るように促した。

「あの、突然すみません。私、すずなさんの後輩の高桑結愛と言います」

 靴を脱いで廊下に上がると、結愛は頭を下げた。すずながタクシーの中で整えた甲斐あって、マスカラで隈取されていた顔はいつもの結愛に戻っていた。

「はーい、いらっしゃい。私はすずなの同居人の黒川蛍です。すずなから事情を少し聞いたけど、大変だったね。体調は大丈夫?」

「あっ、はい……。なんか、わちゃわちゃしてる間に痛みも消えちゃいました……」
 結愛が恐縮した様子で頭に手をやった。そのとき、結愛の腹の虫が鳴った。

「やだぁ」

「ほら、手を洗ってご飯食べる用意しよう」
 すずなは結愛の背中を軽く叩くと、脇を通り過ぎて洗面所へ向かった。