王宮にあるミカエルの執務室で2人きりになる。
 彼と2人きりになると押し倒された時の記憶が蘇り少し怖い。

 私のそんな気持ちを察したのか、ソファーに座った私から距離をとった執務机の椅子に彼は座った。

 「何があったのか、話してくれる? 私はミカエルの味方だから⋯⋯あなたが、国王陛下を殺そうとしたなんて全く思ってないわ」
 私の言葉に彼は混乱したような顔をした。
 
「昨晩、父上⋯⋯いや、カイロス国王と話したいと申し出て⋯⋯ステラン公爵から頂いたワインを一緒に飲んでいたら、突然陛下が苦しみ出して意識を失った。でも、僕も一緒に飲んでいたからワインに毒など入っていなかったはずなんだ」
「ワイングラスに毒を塗っていたとかそういうことはないの?」
「ないと思う⋯⋯僕もそれを疑って、陛下が倒れた時に咄嗟に陛下のグラスで残りのワインを飲んだんだ⋯⋯」
 ミカエルは結構アホの子なのかもしれない。
 もし陛下のグラスに毒が塗られていたら自分も死んでしまう。
 しかし、急に予想外のことが起こって動揺してしまったのだろう。

「そう⋯⋯ワインの成分はどんなものが入っていたの? 例えば柑橘系のアレルギーがあってアナフィラキシーショックで倒れた可能性もあるわ」
「アナフィ? アレルギー? とにかく、陛下が倒れた後、慌てて王宮医を呼んだら死んでいるって言われて⋯⋯その後、部屋に入ってきたステラン公爵が陛下は突然死したことにするから任せてくれと⋯⋯」
 王宮医の診断も怪しいし、ステラン公爵も怪しい。
 それに明らかにカイロス国王はミカエルを疑っておらず、ステラン公爵を睨んでいた。

「そのワインはもう手に入らない? それからカイロス国王に食べられないものがあるという話は聞いたことがない?」
「王族は毒殺防止に好き嫌いはないように見せなきゃいけないから⋯⋯ワインはステラン公爵に言えば⋯⋯」
 恐らく同じ種類のワインを提供されても、潔白が証明されてしまうだろう。
 カイロス国王がアレルギーがあったとして、その原因物質をコルクから注入してしまえば良いだけだ。
 それに、ステラン公爵とミカエルを近づけるのは危険だ。
(きっと、また利用される⋯⋯)

「ステラン公爵には近づかないで! それから、私との婚約を解消して欲しいんだけど⋯⋯」
 私の血筋が明らかになれば、カイロス国王は私を立太子させると言っていた。既にミカエルは王太子になって10年なのに、彼を格下げするということなのだろう。
(もしかして、ミカエルはそれが嫌でいっそのこと臣籍降下してくれと言ったんじゃ⋯⋯)

「いやだ⋯⋯それだけは嫌だ。ルシア、僕は国王になれなくても君を失うのだけは嫌なんだ」
 考え込んでいたら、直ぐ近くまで彼が来て私を強く私を抱きしめてきた。
 恐怖を感じなかったのは、彼の体が震えていたからだろう。