今日は2年のライ国での留学から帰ってきて最終学年をルイ国で過ごしたレイラ王女の卒業式だ。
同時に私の2年の交換留学期間が終わる日だ。

私は来年度から白川愛との決戦場とも言えるライ国のアカデミーに赴くことになる。
ルイ王国のアカデミーで過ごした2年間は、近くにララアがいて味方が1人いるだけで世界はこんなにも違うのかと思えた。

それだけではない、1年生の時は最高学年のライアン王子殿下がエリス様と共に私をいつも気にかけてくれた。
2年生になったら、レイラ王女がルイ国に戻ってきて生徒会長としてアカデミーの環境を整えてくれて大きなトラブルもない1年を過ごすことができた。

「では、在校生代表として、2年のルイ国での留学期間を終えて、ライ国に帰国致しますイザベラ・ライト公爵令嬢よりお言葉を頂きます」

私はこの2年間、休みをとりながらもアカデミーに通えたのは何より私を支えてくれたサイラス様がいてくれたからだと思っている。
私は結局中学時代のトラウマから完全に抜け出せず、吐き気をもようしたり、めまいを起こしたり、朝起きれなくなったりを繰り返していた。

そのような時にいち早く気づいてくれて、周りに知られないよう私に寄り添ってくれたのがサイラス様だ。

壇上に上がり、私はマイクをとった。
別れたくない、サイラス様と一緒にいたい。
そのようなことは言うべきではないと分かっている。

レイラ王女からルブリスとフローラが親密な関係になったが、ライト公爵が婚約の継続を希望していると聞いた。
私は、もうライ国に戻ったら、ルイ国には戻れないのかもしれない。

「卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。私はこの2年間、ルイ国でかけがえのない時を過ごしました。ルイ国はなぜこのように豊かなのか、皆様は考えたことがありますか?ライ国が豊かなのは地下資源が豊富だからです。サム国は地の利に恵まれ、各国の貿易の拠点となっています。ルイ国は冬は雪がたくさん降り、1年の半分近くは寒い日が続きます。でも、この国に来て、私は寒さを感じずいつも暖かいと感じていました。それはこの国の最大の財産である人の温かみに触れてきたからです。ルイ国の人は雪が降れば、その雪を楽しもうとします。雪遊びはこの国に来ないとできません。そのことにいち早く気づき、観光業が発展させた人がいます。雪が積もった植物が苦しいと声をあげているのを見て頑丈な温室を作った人がいます。皆、ルイ国の暖かい人々です。3年生の皆様、皆様の授業を見学させて頂いた時、私は大変感銘を受けました。一人一人がこの国の未来を考え、国際情勢に興味を持ち、政治について考えています。ルイ国の未来の国王陛下を支える臣下はとても尊敬できる素晴らしい方々でした。願わくば、もう一度私はルイ国に戻って来たいです。あなた達の作っていくこの国の未来を見てみたいと願っています。卒業生の皆様のご健康と益々のご活躍を祈念して在校生代表の送辞とさせて頂きます」

壇上から降りて、ララアの隣の席に着くと小声で話しかけられた。

「すごい、イザベラって原稿を用意しないで話せるのね。感動して泣きそうだよ」

「原稿を用意したら、読まなければならないというプレッシャーに負けてしまうのです。会場にいるサイラス様に一緒にいたいという気持ちを伝えたのですが通じたでしょうか。そのようなことを伝えるべきではないと分かっていても、伝えずにはいられなかったのです」

私の囁きにララアが驚いた顔をした。

「お兄様なら、送辞の内容からイザベラの気持ちを汲み取ってくれるかもしれない。でも、ちゃんとお兄様と向き合って言葉で気持ちを伝えないと後悔するよ。何とかしてくれるかもしれないよ。サイラスお兄様はすごいんだから。イザベラはただお兄様の待っている言葉を伝えてあげて」

私の手を握りめて私に助言をしてくれたララアの手を握り返した。

♢♢♢

卒業式が終わり、会場を出ようとするとサイラス様が私を待っていてくれた。
「イザベラ、ルイ国にはライ国にはない海があるのですよ。あなたを連れて行きたいのですが、よろしいですか?」
いつもの自信に溢れるサイラス様とは違い、少し不安そうな感じがした。

私は結局言葉で彼に想いを伝えることはなかった。
察しの良い彼のことだから私の気持ちには最初から気がついている。
そして、私の「好き」という言葉だけを待ち侘びていることは知っていた。

「海をサイラス様と2人で見たいです。実は前世で、唯一、日帰りですが旅行したのが海です。貧乏で忙しい両親にどこにも連れて行ってもらえない私と弟を憐れんだ近所のおじさんが連れて行ってくれたのです。」
私は前世の遠い日の記憶を思い出しながら話した。

「近所のおじさんに嫉妬します。イザベラ、あなたの初めては全て私が奪いたいのです。あなたを求めるあまり、周りが見えなくなった4年間でした。でも、これほどまでに周りを見えなくしてくれたイザベラに感謝します。イザベラが私の前に現れて以来、私はずっと幸せで胸が高鳴っています」

サイラス様の言葉に私はいつだって胸がときめく。

「海が綺麗ですね。波の音は優しいサイラス様の声を思い出します。私、今日という日を忘れません。海の青を思い出す度にサイラス様の瞳の色を思い出します。あなたが好きです。愛しています。たとえ一緒になれなくて他の人と過ごす未来しかなくても、あなただけを思っています」

今日はサイラス様と私のお別れの日だった。

私は彼が言って欲しくてたまらなく、今日だけは言うべきではなかった告白をした。
やはりルブリス王子との婚約破棄は難しく、私にはルブリス王子と結婚をする未来しかないのかもしれない。

「私はまだ諦めていませんよ。こんなにも勇気を出してくれたイザベラの告白を聞いて諦められる訳がありません」

サイラス様はそう言うと、私に口づけをした。
この瞬間を私は2度と忘れることがないだろう。