他のモデルたちはスタジオ内で撮影中か待機中なので、更衣室は現在三人の貸し切り状態だ。それでも快が加わると、部屋は途端に賑やかになる。
「きっと次の撮影も日曜だろうな。名無しの通ってる高校って公立? 土曜は学校あんの」
「ある時とない時がある」
「名無しの家って遠いんだろ。学校終わってからだと、永遠の家には何時に来れんだよ」
快は衣装に着替えながら、啓介に向かって高圧的に質問を続けた。
加勢から名無しと呼ばれるのもどうかと思っていたが、快にまで連呼されるとさすがに腹が立つ。啓介は「さぁ」とだけ答えて、これ見よがしにムッとした表情を作った。そうすると、快も負けじと同じように眉をしかめる。
「何だよ。名無しで間違ってねーだろ。イヤならさっさと名前決めろよ」
「別に。僕なにも言ってないじゃん」
「だったらムカつく顔すんな」
「は? ムカつく顔してんのはそっちでしょ」
睨みあって一歩も譲らない啓介と快の間に、永遠が「もー!」と憤りながら割って入る。
「何ですぐケンカしちゃうかな。二人とも大人でしょ。仲良くね」
「大人じゃねぇよ」
「中二から見たら、高二は充分オトナだよ」
年下に注意されるのはさすがにバツが悪いようで、快はそれ以上何も言わずに背を向けた。啓介はその背中に向かって心の中で舌を出す。気分を変えるように鏡に映る自分を眺めてみたが、どこかしっくりこなくて「うーん」と唸った。
「ねぇ、永遠。今日のコーデもアレンジして良いと思う?」
話しかけられた永遠は啓介の隣に並び、鏡の中を覗き込んだ。
「黒いサスペンダー付きの七分丈ボールパンツに、ストライプのシャツとリボンネクタイかぁ。凄く似合ってるけど、どこを変えたいの?」
「リボンネクタイ。あと、これにベストを合わせたい」
結んだ襟元のリボンを解きながら啓介が答えると、永遠は手を顎に軽く添えて「ふむふむ」とうなずいた。いつの間にか背後に来ていた快が、啓介の肩越しに尋ねる。
「リボンやめて何を代わりにすんだよ」
「ゴーグルが欲しいなって思ってる」
「頭の中のイメージはどんな?」
「スチームパンク」
答えると同時に快が大きく舌打ちをした。鏡に映る快の表情がみるみる曇る。その瞬間啓介は「今日は勝ったかもしれない」と少しだけ高揚した。快は明らかに不機嫌そうで、親指の爪を噛みながら一点を見つめ何か思案している。恐らく啓介の提案したコーディネートに嫉妬し、対抗するための組み合わせを必死に脳内で描いているのだろう。
――きっと、快に嫉妬した自分もあんな顔をしているんだろうな。
高揚したのも束の間、鏡の中の自分と快を見比べ、勝ち負けに囚われてばかりいることにほんの少し嫌気がさした。
「きっと次の撮影も日曜だろうな。名無しの通ってる高校って公立? 土曜は学校あんの」
「ある時とない時がある」
「名無しの家って遠いんだろ。学校終わってからだと、永遠の家には何時に来れんだよ」
快は衣装に着替えながら、啓介に向かって高圧的に質問を続けた。
加勢から名無しと呼ばれるのもどうかと思っていたが、快にまで連呼されるとさすがに腹が立つ。啓介は「さぁ」とだけ答えて、これ見よがしにムッとした表情を作った。そうすると、快も負けじと同じように眉をしかめる。
「何だよ。名無しで間違ってねーだろ。イヤならさっさと名前決めろよ」
「別に。僕なにも言ってないじゃん」
「だったらムカつく顔すんな」
「は? ムカつく顔してんのはそっちでしょ」
睨みあって一歩も譲らない啓介と快の間に、永遠が「もー!」と憤りながら割って入る。
「何ですぐケンカしちゃうかな。二人とも大人でしょ。仲良くね」
「大人じゃねぇよ」
「中二から見たら、高二は充分オトナだよ」
年下に注意されるのはさすがにバツが悪いようで、快はそれ以上何も言わずに背を向けた。啓介はその背中に向かって心の中で舌を出す。気分を変えるように鏡に映る自分を眺めてみたが、どこかしっくりこなくて「うーん」と唸った。
「ねぇ、永遠。今日のコーデもアレンジして良いと思う?」
話しかけられた永遠は啓介の隣に並び、鏡の中を覗き込んだ。
「黒いサスペンダー付きの七分丈ボールパンツに、ストライプのシャツとリボンネクタイかぁ。凄く似合ってるけど、どこを変えたいの?」
「リボンネクタイ。あと、これにベストを合わせたい」
結んだ襟元のリボンを解きながら啓介が答えると、永遠は手を顎に軽く添えて「ふむふむ」とうなずいた。いつの間にか背後に来ていた快が、啓介の肩越しに尋ねる。
「リボンやめて何を代わりにすんだよ」
「ゴーグルが欲しいなって思ってる」
「頭の中のイメージはどんな?」
「スチームパンク」
答えると同時に快が大きく舌打ちをした。鏡に映る快の表情がみるみる曇る。その瞬間啓介は「今日は勝ったかもしれない」と少しだけ高揚した。快は明らかに不機嫌そうで、親指の爪を噛みながら一点を見つめ何か思案している。恐らく啓介の提案したコーディネートに嫉妬し、対抗するための組み合わせを必死に脳内で描いているのだろう。
――きっと、快に嫉妬した自分もあんな顔をしているんだろうな。
高揚したのも束の間、鏡の中の自分と快を見比べ、勝ち負けに囚われてばかりいることにほんの少し嫌気がさした。