「もうっ。お兄さんってば」

 永遠のコーデに想いを巡らせていた啓介は、結果的に問いを無視した形になっていたらしい。気付けば永遠が、頬を大きく膨らませていた。

「え。永遠どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょ。私の話し聞いてた?」

 そう言えば何か言われた気がする。啓介が首を傾げると、永遠の頬は益々膨らんだ。そんなやり取りを見かねた倉持が、二人の背中を叩きながら更衣室へと押し込める。

「ほらほら、話の続きは着替えながらね。松永さーん! 今日もよろしくお願いします」

 言いながら倉持は、松永に向かって深々とお辞儀した。それに習い、啓介も永遠も「お願いします」と頭を下げる。

「こちらこそよろしくお願いします。二人とも今日は表紙の撮影もあるし、シーン別に何度か衣装を変えるけど頑張ってね。それじゃ、まずはこれを着てくれるかな」

 それぞれに衣装を手渡され、早速着替え始める。用意された衣装はリューレントの時と違い、学生でも手が届く親しみやすいブランドだった。松永も今日は手袋は付けておらず、少しだけホッとする。

「さっきの話だけど。次の撮影の時は、前日からうちに泊まりなよ」

 永遠がシャツのボタンをとめながら啓介を見る。うーんと唸りながら、啓介もトロンとした生地のシャツを羽織った。

「僕さぁ、プライベートの空間に誰かいるの苦手なんだよね。落ち着かないじゃない。だから永遠んちじゃなくて、どっかホテル取ってもらう」

 にべもなく断る啓介に、永遠が挑むような笑みを浮かべる。

「お兄さん、そんなにあっさり断っちゃって良いの? 今まで私が溜め込んだ、選りすぐりのコーデの切り抜き見たくない? ノートでもう、ニ十冊以上あるんだ。あとね、廃盤になっちゃった雑誌もいっぱいあるよ。それからそれから、私の持ってる服も興味あるでしょ。女の子の服も男の子の服も、どっちもたくさんあるよ。二人でコーデし合って遊ぼうよ」

 それはどれも夢のような提案で、啓介の顔がパッと輝く。

「なにそれ、すっごく楽しそう!」
「でしょでしょ?」
「じゃあ僕も、描き溜めたデザイン画もって行こうかな」
「わぁ、絶対持ってきて!」

 手を叩きながらはしゃいでいると、永遠の背後から突然ぬッと手が伸びてきた。啓介が驚いて手の主を見ると、そこにはニンマリと笑う快がいる。快は永遠の首にじゃれるように腕を回して肩を組んだ。

「いいな、それ。面白そう。じゃ、その日は俺も永遠んち行くわ」
「えぇ。快くんも来るの?」

 永遠に邪険に扱われても、快晴はお構いなしで胸を張る。

「当たり前だろ。俺は海外コレクションの動画持って行ってやるよ。ミラノにパリ、ニューヨークにロンドン。お袋が特等席で撮ったショーだぞ。興味あるだろ?」

 そう問われた瞬間、「ある!」と啓介と永遠の声が重なった。