出来上がった雑誌(リューレント)が家に届いたのは、撮影から二週間後のことだった。この短期間でよく今月号の発売日に間に合ったなと、啓介は感心しながらページを捲る。どうやら他のページは既に校了作業に入っていたらしく、あの日撮った写真だけをレイアウト通りに流し込んだらしい。

 届いた雑誌を自室のベッドの上でいつものように眺めていた啓介は、真ん中あたりのページに差し掛かった瞬間、声にならない声をあげた。驚き過ぎて思わず手を離してしまい、仰向けに寝転んだ状態の顔の上に勢いよく雑誌が落ちる。

「痛っ!」
 
 痛みと驚きで混乱し、暫く雑誌を顔の上に乗せたままの状態で固まった。
 永遠と快と三人で撮った写真が載っていると言う事はもちろん予想していたが、しかし今見たのは一体何だ。
 恐る恐る雑誌を拾いあげ、呼吸を整え再びページを開く。

 そこには啓介一人で撮った写真が、一ページまるまる使って大きく掲載されていた。挑むような強い目線で、口元には薄っすら笑みを浮かべている。それはまるでアートフォトのような仕上がりで、客観的に見たらとても良い写真だった。ただ、それが自分自身となると、途端に羞恥に苛まれる。

「なんでぇ? あれってカメラに慣れるための、試し撮りだったんじゃないの?」

 上ずった声で不満を並べ立てていると、丁度よく倉持からの着信があった。素早く電話を取り、相手が話し出す前に「ねぇ、どういうコト?」と文句をぶつける。

『お疲れ様です……って、ええ? どうしました』
「僕、あの写真使うって聞いてないんだけど」
『いえいえ、バッチリ了承してくれたじゃないですか。撮影直後に加勢さんに聞かれて、「好きにしていいよ」って言ったの、覚えてません?』

 そう言われて記憶をたどる。撮影直後、アドレナリンが過剰分泌されていた時に、確かにそんなことを言ったような気もする。啓介は唸りながら「でもあんなにおっきく載ると思わなかった」と拗ねたような声色を出した。

『まぁ、そうおっしゃらずに。前代未聞の待遇ですよ、新人が一ページ丸ごと独占だなんて。リューレントで他にあんな風に写真を使って貰えるの、南野さんかエレナさんくらいですからね。それに、何より本当に素晴らしい出来映えでした』

 姿が見えていなくても、倉持が上機嫌だということがわかった。その倉持の背後で「凄い、凄い」とはしゃぐ永遠の声もする。

「永遠も一緒なんだ」
『ええ、これから永遠がイメージモデルを務めているブランドの広告撮りがありまして』
「広告撮り? 永遠ってブレイバーの専属じゃないの?」

 啓介の問いに、倉持は「そうですよ」と朗らかに答える。

『雑誌のモデルとしてはブレイバー専属ですが、雑誌以外なら他にも仕事は色々出来ます。ブランドの広告塔や、コマーシャルとか。梅田くんが望むなら、ドラマ出演なんかも可能です。気合入れて仕事取ってきますよ』
「あー、うん。ありがと大丈夫。しばらくはブレイバーだけで充分かな」

 話が膨らみ過ぎて、啓介は焦りながら早口でまくし立てた。倉持は「そうですか」と少し残念そうだったが、無理はさせないと約束してくれた通り、すぐに引き下がる。

『そうそう、これを伝えなきゃ。ブレイバーの撮影が来週の日曜に決まりました。集合時間が早いので、寝坊しないでくださいね。詳細はあとでメールで送ります』

 啓介は「はぁい」と間延びした返事をしながら通話を終える。いよいよ動き出したなぁと、再びリューレントに手を伸ばした。
 今、日本全国の書店にこの雑誌が並んでいるのかと思うと、身震いしてしまう。一体どれくらいの人がこのページを目にし、果たして何を想うのだろう。自分が読者だった時のように、胸躍るような期待感や高揚感を与える事は出来ただろうか。

「うわー。無理ぃ」

 枕を手繰り寄せて顔を埋める。今更ながら、とんでもない世界に飛び込んでしまったものだ。枕を抱えて身を縮めていると、メールの着信音がして顔を上げた。倉持からの仕事のメールと予想したが、画面を見て「おや?」と思う。

「直人からだ。『今、外に出れるか』って? 何の用だろ」

 啓介は髪をかき上げながら、ゆっくり立ち上がった。