挑戦状を叩きつけてやろうと思った。
 誰かに対してではなく、他ならぬ自分自身に。
 まだ今は、それが精一杯。
 でもいつかは世界を相手取ってみたい。

 ランウェイでスキップしたら怒られるだろうかと考えながら、啓介は最後の最後まで笹沼がこだわって調整していたスカートのプリーツに視線を落とした。
 どうせなら、ステージ上で綺麗に見せてあげよう。
 啓介は歩きながらスカートを摘まみ上げ、ヒラリと大きく広げたあと手を離す。ふんわりと揺れるシルエットに、会場からため息が漏れた。

 やがてランウェイの先端に辿り着き、そう言えばここで何かした方が良いのだろうかと首を傾げる。スポットライトは眩しかったが、客席にいる人の顔は案外よく見えた。
 ぐるりと会場を見渡した後、目の前に座る最前列の若い女性客と目が合った。顔の前で祈るように手を組み、一心にこちらを見つめている。

 熱心に見入ってくれるのは有難いと思いながら、お礼の代わりに投げキッスを送った。その瞬間、彼女を中心とした客席の辺りから甲高い悲鳴がいくつも上がり、啓介の方が驚いてしまう。
 鏡を見ていないので自分の姿を確認出来ていないが、あの反応を見るに、良い仕上がりになっているのだろう。
 少々調子に乗り過ぎたかもしれないと心の中で舌を出し、そのままくるりと踵を返した。「ふざけ過ぎ」と笹沼に叱られるかもしれないが、転ばなかったんだから上出来だ。
 舞台袖に戻ると、口元に手を当てて肩を震わせる笹沼に出迎えられた。泣いているのかと思ったら、どうやら声を出して笑いたいのを堪えているらしい。

「お疲れ様。あんたやっぱり凄いや、パフォーマンスまですると思わなかった。それに、勘もいいし。プリーツを綺麗に見せてくれて嬉しかったよ。そう言えば、まだちゃんとお礼を言ってなかったね。引き受けてくれてありがとう。おかげで助かった」
「どういたしまして。僕も楽しかった。あとね、僕、この大学受けることにしたから」

 啓介が胸を張って正面から笹沼を見据える。笹沼は「へぇ」と口角を上げた。

「あんた、今何年生?」
「高二」
「残念。あんたが入学する時に、私は卒業しちゃってる。桜華祭で直接対決してみたかったな」
「社会に出ればいくらでも勝負の場はあるでしょ。僕が大学を卒業するまで、ちょっとだけ待っててよ。絶対に負けないけどね」
「おーおー。大口叩くじゃん。せいぜい頑張んなよ。返り討ちにしてやるからさ」

 言いながら笹沼が左手を差し出した。意図が解らず、啓介は不思議そうにその手を見つめる。

「なんで左手?」
「右手の握手は『武器を持ってません』ってアピールで友好の証。左手はその逆で決闘の申し込みの宣戦布告。ま、諸説あるから絶対そうとは言い切れないけど。という訳で、私たちは左手で握手をしよう」
「へぇ、面白いね。覚えとこ」

 啓介は楽しそうに、左手で笹沼の手を握り返した。