「それで、あのあとどうなったんすか?」

 文化祭から数日が過ぎた学生食堂で、蔵人と綺紗羅と冬馬が並んで座っている向かい側に、海音寺がいた。
 演劇部の公演が終わったところで、片桐に見つかる前にと西城が案内をして、三人は裏から体育館を離れ、視聴覚室でメイクを落として衣装を脱ぎ、それっきり演劇部には近寄っていなかった。

「どうもなにも、片桐は今、有頂天さ」
「なんでです?」
「そりゃ、あの演出が片桐のやったものだと思われてて、周囲からの評価が良いからさ。もっとも本音は少々不愉快みたいだけどな」

 そういって、海音寺は笑う。

「そう言えば、後夜祭の人気投票で、演劇部の出し物1位だったっけ」
「そうそう。それが全部、片桐の評価になってるから、俺らが台本を改変したことを、公に出来なくなってんだ。おかげで、俺には当たりが強いけどな」

 海音寺は、片桐に思うところがかなりあったらしく、かなりスッキリした顔をしている。

「ま、もしそっちに片桐が文句つけにきたら、俺に言ってくれ。一応、アレに関して(だれ)かにいちゃもんつけたら、進路相談の教諭に証拠込みで全部バラすって釘さしてあるから、大丈夫とは思うけどな!」

 そう言って、海音寺は立ち上がると食堂から出ていった。

「やれやれ、上級生に無駄に目をつけられることは避けられたけど、冷や汗モンだったな」
「でも、面白かったじゃん。てか、海音寺さんにメイクしてもらったクラちゃん、すっごい美人でびっくりした!」
「ありゃ、完全に別人だ」

 笑い合う蔵人と冬馬に、不意に綺紗羅がペコッと頭を下げる。

「ふたりとも、ありがとう」
「なんだ?」
「どしたん、サラちゃん」
「いや、私は子供の頃にカメラテストで泣き出して、全く母の期待に添えることが出来なかった。そのことをとても後悔していたんだ。だが今回、母のファンだという片桐の希望に添うために、二人に迷惑をかけたと…」
「やだなー、サラちゃん! 迷惑じゃないし、そもそもあすこに連れてったの僕じゃんか!」

 思わず話を遮るように言った冬馬に、綺紗羅は首を横に振る。

「実は、あの舞台を母が見に来ていた」
「そうなの?」
「でも、キサラんちって、かーちゃんといっしょに飯も食ってないとか言ってなかったっけ?」
「母は、私に興味がないのかと思っていたのだが、意外にそうでもなかったらしい。文化祭で劇に出る話を家政婦から伝え聞いたら、わざわざその日に合わせてオフを取ってくれたそうだ」
「ええ〜、更紗さんが見に来たんじゃ、片桐先輩がますますつけあがりそう」
「話に出てないトコ見ると、気が付かなったんじゃね?」
「二人のおかげで、私が持っていた母に対する誤解もとけたように思う。改めて、ありがとう」
「いや〜、そんな(ふう)に言われちゃうと、恥ずかしいよね〜」
「かーちゃん、白雪姫褒めてくれたん?」
「うむ。カメラテストで泣いた私を思い出して、ずっとハラハラしていたそうだ」

 綺紗羅の返事に、蔵人と冬馬は思わず笑ってしまった。




終わり。