文化祭当日、劇を披露する体育館には、演劇部員の家族の他にも観客はかなり集まっていた。
 去年の舞台が好評だったこともあって、それなりの期待値があったのだろう。

「クラちゃん、準備は?」
「もちろん」

 海音寺の代わりに、お后のセリフを喋るだけ…と言われていたが、海音寺が拒否の姿勢を貫いたために、有耶無耶のうちに蔵人がお后を演じることになっていた。
 主役と同等にセリフのあるヴィランを、手伝いの一年生が…と言ってみたが、代わりに応対をしていたのだからセリフは覚えているだろうと押し切られた。
 片桐のワンマンに口出しが出来る唯一の海音寺がいないこともあるが、他の部員もまた女装はしたくなかったらしい。

「客の入りは?」
「満席。舞台以外は暗いから、全員配置につくのも楽々だったって」
「よし、じゃあやるか!」

 蔵人が立ち上がった。