海音寺と蔵人たちは、とりあえず場所を改めて話をすることにした。
 冬馬が少々馬鹿げた問いを投げかけたことで、なんだかそれまでの空気が変わってしまったこともあったが、西城を含めた海音寺の取り巻きたちの手当もしなければならなかったからだ。

「確かに俺は、片桐の才能は認めてるが。でも、あいつの人格はあんまり褒められたもんじゃないぞ」

 視聴覚室の椅子に座った海音寺は、やや怒った顔でそう言った。
 好きなのか? の問いに、海音寺が顔を赤らめたのは、照れ隠しのためでなく、単に腹を立てての所為だったようだ。

「そうなんですか?」
「片桐のシンパが、一方的に俺が片桐に惚れているなんてウワサを流してるだけだ」
「じゃあ、海音寺先輩は、片桐先輩に白雪姫の役をもらえなかったから、怒ってるってのも…?」
「そこは怒るに決まってんだろ! あいつ、美咲が来るまでは俺に白雪姫の役を振ってたのに、コロッと掌返ししやがって!」
「でも、お后の役だって美人じゃないっすか?」

 冬馬の問いに、キッと海音寺が冬馬を睨む。

「あのなぁ! 言っておくが、俺は好き好んで女装してないぞ!」
「は?」
「当たり前だろ! もしそこで美咲を白雪姫にするなら、俺の役は王子一択だろうがっ!」
「そういうモンですか?」
「急な役の変更をするなら、自分でその尻拭いをしろって話だよ! 片桐は演出と役と両方絶対やるとか抜かしてるが、それなら自分がお后やればいいだろがっ!」

 海音寺の発言に、少し考え込んでから冬馬が挙手をした。

「そんなら、みんなで片桐先輩に一泡吹かせてやればいいと思いまーす!」
「一泡って、なにをしようってんだよ?」
「ちょっと一案思いついたから、海音寺さんが手伝ってくれれば絶対成功すると思うんだよねー」

 冬馬はそういうと、ウヒヒヒと笑った。