海音寺は、体育館裏へ向かった。
蔵人が後を追ってそこに駆け込むと、数人の生徒が地面に座り込んでいて、西城と綺紗羅が向かい合っている。
「コドラン、てめぇ! 余分なことを!」
「あ、海音寺さん!」
海音寺の姿を見た西城は、思わぬ救い主が現れたかのように顔を輝かせる。
「大丈夫か?」
問うた蔵人に、綺紗羅はいつもの通りにあまり表情を出さず、コクンと頷く。
「私の顔面に傷を付けたいと言われた。私は私の顔面がさほど好ましいと思ってはいないが、刃物で切りつけられるのは痛いので遠慮した」
「刃物…?」
不穏な単語に辺りをよく見れば、西城の手にはバタフライナイフのようなものが握られている。
「刃物持ってるヤツらを相手に、どうしてこうなった?」
「子供の頃、母の周りで身代金目当ての誘拐とか、やっかみで乳児を殺害するような事件があったので、護身のために合気道を習っていた」
「その細腕でかっ?」
「小学校に上がってまもなく、今度は子息が暴力沙汰を起こして仕事をなくす同業者が増えて、母が武道を習わせることに否定的になり止めた」
綺紗羅の説明に、蔵人は『実は毒親なんじゃ…?』と思ったが、黙っていた。
一方で、綺紗羅の顔に傷をつけようとした西城のことを、海音寺は殴り飛ばしている。
「海音寺さん! なんで?」
「なんでもなにも、フツーに考えてこんなん傷害事件だろうがっ! マスコミ沙汰になったら、文化祭どころじゃなくなるってわかれよっ!」
「そんなの、アイツが黙ってれば」
「相手は女優の息子だぞっ! 顔に傷なんかつけられて、親が黙ってる訳ねえだろがっ!」
わなわなと震えて、西城は泣き伏せた。
「だって、そんなひどいじゃないですかっ! 海音寺さんがヒロイン演らないなんて、ありえないっしょっ!」
「だからって、傷害事件起こして良い理由にはならねえだろうがよっ!」
西城を叱りつける海音寺を見て、綺紗羅がそっと蔵人の傍に寄った。
「なかなか粗暴だな、海音寺先輩は」
「見かけによらないよな」
耳打ちに、蔵人も同意をした。
「クラちゃ〜ん、授業始まっちゃったよ〜」
そこに、のこのこと冬馬がやってくる。
「おまえ、何しに来たの?」
「ひっどーい! クラちゃんが血相変えて走っていったから、何事かと追いかけて来たんじゃん!」
「だからって、おまえまで授業サボるなよ」
冬馬が何かを言い返そうとしたところに、西城の襟首を掴んだ海音寺が、こちらに来た。
「ほら、謝れ!」
「すいませんっしたっ」
海音寺に促されて、西城が直角に頭を下げた。
「どういう状況?」
「後で説明するから、今は黙ってろ」
こそっと訊ねてきた冬馬に、蔵人もこそっと返す。
「いや、むしろ怪我をしているのはそちらばかりだから、謝罪は不要だ」
「呼び出されて刃物振り回されたんだから、謝罪は必要だろ」
「そうか? では、謝罪は受け取った。根に持っていないので、水に流そう」
綺紗羅の言葉に、海音寺も態度を和らげる。
「済まなかったな。こいつらは、去年の舞台を見てから、何かと俺の身の回りで動いてくれていたんだが…」
「だって、ひどいっすよ! そもそもヒロインは、海音寺さん以外、考えられないっす」
「その場合、片桐先輩に苦情をねじ込むべきなのでは?」
蔵人のコメントに、西城は今更そのことに気付いたような顔をした。
「あ、僕、ちょっと気になってることがあって、ちょーどいいから今聞きたいんですけど!」
挙手をして、冬馬が蔵人を押しのけて前に出てくる。
「俺にか?」
「はいっ! 海音寺さんって、ホントに片桐さんが好きなんですか?」
「はあっ?!」
冬馬の質問に、海音寺は顔を赤くした。
蔵人が後を追ってそこに駆け込むと、数人の生徒が地面に座り込んでいて、西城と綺紗羅が向かい合っている。
「コドラン、てめぇ! 余分なことを!」
「あ、海音寺さん!」
海音寺の姿を見た西城は、思わぬ救い主が現れたかのように顔を輝かせる。
「大丈夫か?」
問うた蔵人に、綺紗羅はいつもの通りにあまり表情を出さず、コクンと頷く。
「私の顔面に傷を付けたいと言われた。私は私の顔面がさほど好ましいと思ってはいないが、刃物で切りつけられるのは痛いので遠慮した」
「刃物…?」
不穏な単語に辺りをよく見れば、西城の手にはバタフライナイフのようなものが握られている。
「刃物持ってるヤツらを相手に、どうしてこうなった?」
「子供の頃、母の周りで身代金目当ての誘拐とか、やっかみで乳児を殺害するような事件があったので、護身のために合気道を習っていた」
「その細腕でかっ?」
「小学校に上がってまもなく、今度は子息が暴力沙汰を起こして仕事をなくす同業者が増えて、母が武道を習わせることに否定的になり止めた」
綺紗羅の説明に、蔵人は『実は毒親なんじゃ…?』と思ったが、黙っていた。
一方で、綺紗羅の顔に傷をつけようとした西城のことを、海音寺は殴り飛ばしている。
「海音寺さん! なんで?」
「なんでもなにも、フツーに考えてこんなん傷害事件だろうがっ! マスコミ沙汰になったら、文化祭どころじゃなくなるってわかれよっ!」
「そんなの、アイツが黙ってれば」
「相手は女優の息子だぞっ! 顔に傷なんかつけられて、親が黙ってる訳ねえだろがっ!」
わなわなと震えて、西城は泣き伏せた。
「だって、そんなひどいじゃないですかっ! 海音寺さんがヒロイン演らないなんて、ありえないっしょっ!」
「だからって、傷害事件起こして良い理由にはならねえだろうがよっ!」
西城を叱りつける海音寺を見て、綺紗羅がそっと蔵人の傍に寄った。
「なかなか粗暴だな、海音寺先輩は」
「見かけによらないよな」
耳打ちに、蔵人も同意をした。
「クラちゃ〜ん、授業始まっちゃったよ〜」
そこに、のこのこと冬馬がやってくる。
「おまえ、何しに来たの?」
「ひっどーい! クラちゃんが血相変えて走っていったから、何事かと追いかけて来たんじゃん!」
「だからって、おまえまで授業サボるなよ」
冬馬が何かを言い返そうとしたところに、西城の襟首を掴んだ海音寺が、こちらに来た。
「ほら、謝れ!」
「すいませんっしたっ」
海音寺に促されて、西城が直角に頭を下げた。
「どういう状況?」
「後で説明するから、今は黙ってろ」
こそっと訊ねてきた冬馬に、蔵人もこそっと返す。
「いや、むしろ怪我をしているのはそちらばかりだから、謝罪は不要だ」
「呼び出されて刃物振り回されたんだから、謝罪は必要だろ」
「そうか? では、謝罪は受け取った。根に持っていないので、水に流そう」
綺紗羅の言葉に、海音寺も態度を和らげる。
「済まなかったな。こいつらは、去年の舞台を見てから、何かと俺の身の回りで動いてくれていたんだが…」
「だって、ひどいっすよ! そもそもヒロインは、海音寺さん以外、考えられないっす」
「その場合、片桐先輩に苦情をねじ込むべきなのでは?」
蔵人のコメントに、西城は今更そのことに気付いたような顔をした。
「あ、僕、ちょっと気になってることがあって、ちょーどいいから今聞きたいんですけど!」
挙手をして、冬馬が蔵人を押しのけて前に出てくる。
「俺にか?」
「はいっ! 海音寺さんって、ホントに片桐さんが好きなんですか?」
「はあっ?!」
冬馬の質問に、海音寺は顔を赤くした。