春風が吹いた。
暖かいような冷たいような風だ。
私は屋上のフェンスのうち側から夕焼けに染まる街を見下ろしていた。


家族とも仲はいいし虐められてるわけじゃない。なのに消えたいと思うのは何故だろう?
死にたい、じゃなくて消えたい。
死にたいけど死にたくない。
生きたいけど生きたくない。
最近そんなことを思って生きている。
ここから落ちたら死ねるのかなって、なーんて思ったり。

私はここから見下ろす景色が好きだ。
家の明かりがつき始めて夜になっていく、一日が終わる感じがして寂しいような嬉しいような気持ちになる。
十八時。そろそろ帰ろうかな。
そう思った瞬間
屋上のドアが開いた。


ガタンッ___


「え、何してるの…?」
振り向けば背が高く肌の白い顔の整った男子生徒が慌てた様子で立っていた。
私が唖然としていると彼は
「危ないからこっち来て…!」
ここから落ちて死ぬとでも思ったのだろうか
男子生徒は私に向かって手を伸ばした。
私はその手を掴んだ。
ほんとは少し躊躇った、でも気づけば手を握っていた。多分少し嬉しかった、期待をしてしまったんだ。

私は男子生徒に手を引かれるまま屋上の真ん中の方へ来た。
「名前なんて言うの?」
「青瀬海葉です…」
私がそう言うと男子生徒は微笑んだ。
「僕は柳井津詠!3年生だよ、よろしくね」
先輩だった。顔整ってるし背も高いしモテるんだろうな。
そんなことを思っていた。
「1年生?」
「はい」
私が返事をすると先輩は心配そうな顔で申し訳なさそうに聞いてきた。
「あんなことろで何してたの?」
私は正直に答えた。
「街、見てただけですよ。ここから見る夕焼け好きなんです」
私がそう言うと先輩は安心したようで「そっか。よかった」と言った。
もしかして死のうとしてる人に見えたのだろうか?
まぁそう思われても仕方ないよな…そう思って居た
「明日お昼ここで一緒に食べない?」
「え、」
それって初対面の人に言うか…?
それにこの人、モテそうだし、友達も沢山居そう。なんで私に?
「俺の友達もいるんだけどいい?」
もう断れる雰囲気じゃないな、諦めよう。
「いいですよ。」
「やったー!ありがとう!」
先輩はとても喜んでいた。そんな嬉しいことなのかな、?
私もお昼はいつも一人で食べているからまぁいいか。と思うことにした。
「海葉ちゃんって部活なにか入ってるの 」
「一応、写真部に入ってます」
ほぼ行ってないけど。私は中学生の頃から写真を撮るのが好きだった。好きだったと言うより友達とかと遊ぶより一人でいる時間が好きだった。写真も遊びで始めた。いつの間にか趣味になっていただけだ。
ここの高校の写真部は毎日参加しなくてもいいし自由参加だから入っただけだ。
「写真みたいなー!」
先輩はキラキラした顔でこっちを見てきた。
見せられるほど上手くない、ただ自分の好きなものを撮って"写真"っていう形に残して思い出に残しているだけだ。
それでも何故かこの人には見せてもいい、そう思った。だから
「いいですよ、これです」
私は前撮った海の写真を見せた。
「海?綺麗だねー!」
「隣町の海ですよ」
電車で30分ぐらいのところにある隣町の夜海市というところだ。
「夜海の方?」
「知ってます?」
「うん!よく行く!」
「そうなんですね」
"夜海町"は私が去年まで住んでいたところだ。
お父さんの仕事の都合でこっちに来たけど高校の入学と被ったから転校じゃなかったから困ることはあんまりなかった。
「海葉ちゃんはさ、写真関係の仕事とかにつくの?」
「そこまでは考えてないです」
「あ、ごめんね。僕の周りみんな進路決め始めててさ、つい…」
そっか。高校三年生。就職とか進学とか決めるのかな。私全然考えてないや…
そもそも写真はただ好きで、趣味で撮っていた、それに携帯で撮っているだけでカメラのこととか何も知らない、仕事や夢にしようなんて思ったこともなかった。
「ねぇ。よかったらさ、俺のこと撮ってよ」
「え?」
私が驚いた反応をすると先輩は「あっはは!」と楽しそうに笑った。
「俺写真撮られてみたかったんだよね」
そう言って先輩はフェンスの傍まで走っていった。
「どう!?かっこいいでしょ」
そう言いながら先輩はこっちを見た。
私は無性に撮りたくなってシャッターボタンを押した。
不思議と嫌じゃなかった。
ただ綺麗。そう思った。
「どんな感じー?」
先輩は私の所まで走ってきた。
「こんな感じです」
私はさっき撮った写真を見せた。
「え!めっちゃ綺麗!LINEのアイコンにしてもいいー?」
「はい」
先輩は嬉しそうに私の撮った写真を眺めていた。
「連絡知らないので写真送れないんですけど…」
私がそう言うと先輩「あ!」っと言ってポケットから携帯を出した。
「はい!僕の連絡先!」
「ありがとうございます」
お互い"よろしく"のスタンプを送りあって写真を送った。
先輩のアイコンは海の夕焼けの写真だった。
アイコンの場所、夜海町の海だ。
「ねぇ、海葉ちゃん、悩み聞くよ?」
私は笑って「大丈夫ですよ」と答えた。

気のせいだろうか。
先輩が悲しそうな顔をしたのは。
私は気まずくなって「そろそろ帰らないと行けないので帰りますね!」と言って「うん、また明日、気をつけてね。」という先輩の言葉を聞き屋上を後にした。