新人戦が始まった。新しいレギュラーバッテリーは戸田と角谷正継(かどや まさつぐ)。戸田は剛速球を投げるというので、前評判が高かった。
 また、僕はスタンドで応援だった。それでも、嫉妬心を表に出さず、率先して声を出した。
「カッセーカッセー東尾!」
また、いつものこれで。

 試合は順調に勝っていった。特に投手の活躍が華々しく、三振を取りまくる。また準決勝で負けたけれど、学校内ではすっかり戸田が有名になった。
 有名になる、というよりも、人気者になった。戸田はそれなりに良い男なので、女子から絶大なる支持を受け、校内一のモテ男などと言われ始めた。
 そうなると、マネージャー希望の女子が集まり始めた。今までは学年に1人いれば良い方だったのに。ちなみに、3年生の女子マネが引退してしまった今、マネージャーは不在だった。だからこそ、僕がボール磨きなどを頑張っていたのだ。
 マネージャーとしての入部希望者が押し寄せたので、小野寺先生が面接をして、2人に絞ったらしい。2人の女子マネが入部してきた。藤倉花梨(ふじくら かりん)と水樹綾乃(みずき あやの)である。

 だが、これがまた……。
「マネージャー、これしまっておいて。」
誰かが言っても、聞こえないふり。絶対聞こえていると思うのに。
「マネージャー。」
「はーい!」
戸田がマネージャーと言えば、何も言わないうちから飛んでいって、戸田の欲しいものを渡す。誰が見ても不公平。
「花梨ちゃん、ボール磨きしよう!」
僕は、教えてあげようと思ってそう声をかけたのに、
「えー、私他にやる事があるので、先輩お願いしますぅ。」
と、言われてしまった。綾乃ちゃんを目で探すと、やっぱり戸田の近くにいる。何だよ、マネージャーって、何なんだよ。

 だが、腹を立てても仕方ない。マネージャーなんて、元々いなかったと思えばいいのだ。僕は相変わらずグラウンド整備やボール磨きを頑張った。そして、時々監督に褒めてもらった。
 監督は基本、一軍の練習しか見ていない。二軍が練習試合に出る時も、監督は一軍の練習や試合の方に行っていて、僕がいくら試合で頑張っても、直接監督に褒めてもらえる事は無い。だから、せめて態度とガッツで見込んでもらえれば。そう思って頑張っていたのに……。