「どうして一駅先まで歩くんですか?」
ほら、また戻ってきたよ。芽衣ちゃんは、校門を出た辺りでまたこの質問をした。
「どうしてって……。遼悠、どうして?」
僕はもう、こうするしかなかった。遼悠に聞くしか。
「瀬那と話したいからだよ。」
うっわ。ちょっとだけドキっとしちゃったよ。
「お二人仲良いんですね。」
それしか言うことがないようだ。
「こいつは俺のモノだから。」
遼悠はそう言うと、僕の首に腕を絡めた。
「え?どういう事ですか?」
芽衣ちゃんが聞く。そりゃそうだ。
「あ、あのね、春の甲子園に連れて行ったら、何でも言うこと聞くっていう賭け、みたいな?」
僕があたふたしながら言い訳すると、芽衣ちゃんは、
「なるほど、そういうことだったんですね!」
合点がいったみたいだった。
「その賭け、いつまで有効なんですか?」
「え?」
考えてなかった。そうだよな、一度の賭けに勝ったからって、ずっと強要するのはおかしいよな。
「そりゃあ、夏の甲子園の予選までじゃないかな?」
僕はそう言って、遼悠を見た。遼悠は、珍しく驚いた顔をしている。ちょっと面白い。
「なら、夏の甲子園に連れて行ったら、その後もずーっと俺のモノだな?」
「はいはい。でも夏はそう簡単じゃないよ。」
「分かってるよ。」
夏は出場校も多いし、各校力の入れ具合も違う。
 それにしても、「俺のモノ」と言ったって、結局一緒に帰っているだけだ。学校では同じクラスなのに、休み時間に一緒に過ごすわけでもない。キスしたのだって、あの一度きりだし……。まさか、してみたら気持ち悪かったとか?それって意外とショックだな。
 それなら、なぜ一緒に帰りたがるんだ?もしかして、友達が欲しいだけ?
「なあ、そもそも俺のモノって何だ?つまり、友達になって欲しいって事なのか?それなら、賭けとか要らないだろ?」
僕がそう言ったが、遼悠はきゅっと口を結んだだけで、何も言わなかった。
 そのうち、例の公園の前を通りかかった。キスをした公園。
「なあ、もしかして、あの時……良くなかったの?」
僕が小声で言うと、遼悠は横目で僕を見て、それから僕の向こうにある公園の方をちらっと見た。
「いや。」
「でも、あれっきりしないじゃん。」
「……して欲しいのか?」
「ち、違うよ!」
芽衣ちゃんは、ちょっと離れて歩いていた。なので、僕たちは小声でやりとりしているのだ。
「賭けでああいう事するのは、違うなーと思ったんだよ。するなら、ちゃんと……。」
そこで、遼悠は言葉を切った。
「ちゃんと、何?」
「どうしたんですか?」
芽衣ちゃんが僕たちの会話に気づいて近づいてきたので、その話は立ち消えになった。ちゃんと、なんだろう?