海斗は部活を引退した。夏休みの家族旅行は、北海道になった。海斗の住む場所の下見を兼ねていた。今年は旅行中、海斗と岳斗の二人部屋にはしてもらえず、トリプルとシングルの部屋だった。つまり、洋子が一人でシングルの部屋に泊まり、隆二と海斗と岳斗は三人でトリプルに。警戒されていると思うと恥ずかしいやら悲しいやらの二人だが、隆二は酒を飲んで早く眠ってしまい、いびきをかいているので、岳斗と海斗はそれなりに二人きりの時間を満喫できた。いびきを聞きながらではあるが。
 二学期に入り、今年も文化祭がやってきた。海斗のバンドの演奏は、それは盛況で、去年よりも出番を増やしたけれど、希望者が入りきれない状況だった。そしてまた、新たに一年生のファンをどっと増やす事となったのである。
 そして、いよいよ海斗の工学部進学が決定し、本格的に引っ越しの準備が始まった。岳斗は、考えると不安で胸が苦しくて仕方がなかった。だが、とにかくできるだけ長く、海斗との時間を作ろうと思った。一緒に居られる時間は、なるべく楽しく過ごそうと。
 ちなみに、坂上は何度か城崎家を訪ねて来た。岳斗の事よりも、金の無心に来たと言った方がいいかもしれない。それで、警察を呼んで注意してもらったら、それからは来なくなった。

 海斗の卒業式があり、いよいよ引っ越しの日がやってきた。
「ちょくちょく電話するから。」
空港まで見送りに行った岳斗に、海斗がそう言った。岳斗は泣かないように頑張った。海斗の方が色々と不安に違いない、と思って。海斗が搭乗口に消えていくのを見送った後、岳斗が両親と一緒に帰ろうとすると、少し離れた所に前園を見つけた。こっそり見送りに来たのだろうか。ふと気づけば、反対側に大勢の女子高生がいる。皆肩を抱き合って、涙を流していた。海斗のファンたちなのだろうか。海斗にはもう恋人がいるのに、と岳斗は思った。もちろん自分の事である。その事実は限られた人しか知らないから、いつまでも海斗はフリーだと思われて、ファンが絶えないのだろう。大学生になった海斗は、周りにどう言うのだろうか。恋人がいると言うのだろうか。それとも、いないと言うのだろうか。