結局離れ難くなった二人は、掛け布団をソファの所に持って来て、体を寄せ合って夜を明かした。海斗とくっついて寝るのは、岳斗にとっての一番の幸せだ。安心できる場所なのだ。
 岳斗が目を覚ますと、隣に海斗の姿はなく、キッチンにあるコーヒーメーカーがコトコトと音を立てていた。岳斗がキッチンへ行ってみると、海斗はパジャマのまま、朝ごはんの用意をしていた。
「おはよう。」
岳斗が声をかけると、海斗は振り返った。
「おはよ。朝飯食うか?」
晴れやかな笑顔で海斗が問う。岳斗も思わず笑顔になって、
「うん。」
と言った。
 朝ごはんを二人で向かい合って食べながら、
「父さんたちが帰ってきたら、何て言おうか。」
と、海斗が言った。
「え?俺たちの事?」
「そう。恋人同士になりました、でいいかな。」
海斗が嬉しそうに言う。
「ちょっと待て。俺たちがそういう事になった場合、親は何て言うと思う?」
「うーん、よし分かった。おめでとう、とか?」
海斗はのん気に言う。
「そんなわけないだろ。多分……まだ高校生なんだから、恋人同士が一緒に住むのは問題だ、だから一人出ていけ、とか。」
岳斗がそう言うと、海斗は食べている手を止めてポカンと岳斗の顔を見つめた。
「そうなるかな?」
海斗がやっと口をきいた。
「なると思うよ。少なくとも、今までのように隣同士の部屋っていうのは、許されないと思うよ。」
岳斗は意地悪で言っているのではないのだ。真面目に考えて、そう思うのだ。
「という事は、まだ親には言わない方がいいのか。」
海斗が難しい顔をして言った。
「そうだね。母さんには、それぞれの想いはバレてるけど、まだ両想いを確認したところは知らないわけだから、これからは隠し通そうじゃないか。少なくとも成人するまで。」
「分かった。そうだな。親の前では兄弟らしく振舞って、部屋でこっそり、だな。」
海斗は自分に言い聞かせるように言った。こっそり、何するって?と思った岳斗だが、聞こえないフリ、もしくは分からないフリを決め込んだ。
 それから、岳斗は掃除機掛けを始めた。疲れて帰ってくる洋子が、明日も掃除をしなくて済むように、今日は徹底してきれいにしておこうと考えたのだ。海斗には洗濯をするように指示をした。家事に関しては、岳斗の方が慣れているので主導権を握る。
「岳斗、ベランダ……。」
洗濯物を干しに行ったはずの海斗がすぐに戻ってきて、掃除をしている岳斗に何かを訴えに来た。
「ベランダがどうかした?」
岳斗が掃除機を止めて聞くと、
「干してある。昨日の。」
上を指さして海斗が言った。
「あー!昨日、取り込むの忘れたー!」
岳斗は頭を抱えた。
「仕方ない。今日の洗濯物は少しだから、昨日のもそのまま干しておいて。」
「ラジャ!」
海斗はまた階段を上がって行った。

 午後になり、隆二と洋子が帰ってきた。
「ただいまー。」
「お土産買って来たぞー。」
二人は上機嫌で帰ってきた。楽しかったようで何より、と岳斗は思った。
「お帰り!結婚式はどうだった?」
岳斗は二人から手に持ったお土産袋を受け取りながら、そう声を掛けた。洋子はリビングへ入りながら、
「新郎新婦が綺麗だったわー。チャペル婚もいいわねー。」
と言った。海斗が、両親にコーヒーを淹れて運んできた。
「お帰り。はい、コーヒー。」
「あら、気が利くわね。海斗にしては。」
「ホントだ、どういう風の吹き回しだ?」
洋子、そして隆二は少し驚きながらも、嬉しそうだった。そうそう、親孝行はしないとな、と岳斗は心の中で頷いた。
「結婚式、どうだった?」
と、今度は海斗が聞いた。
「素敵だったわよー。あなたたちの結婚式も楽しみねー。チャペルがいいんじゃない?」
「はいぃ?」
岳斗と海斗は思わず顔を見合わせた。あなたたちの結婚式?
「何言ってんだよ、まだまだ先じゃないか。成人式の方が先だよ。」
と、隆二が言った。岳斗と海斗も「あははは」と笑う。考え過ぎたようだ。結婚式も、海斗と岳斗それぞれの、という意味だろう。
 ヒヤヒヤした岳斗。これから母さんにバレずに、海斗と一緒に暮らしていけるのだろうか、と不安になった。