「なんでこんなことに⋯⋯藍子、人様になんてことしているの。もう、大学は辞めなさい。あんた大学に入ってからおかしいわよ」

 母が号泣するのを初めて見た。
 今日は、店を急遽休業にして家族会議をすることになった。

「お母さん、こんなことで刑事告訴チラつかせてくる木嶋アオが頭おかしいの」

 突然、父が私の肩をすごい力で掴んでくる。

「おかしいのはお前だ! しっかりしろ藍子。お前にできるのは、木嶋さんが許さなくても、ひたすら謝り続けることだけだ」

「藍子が刑事告訴されて賠償金を払うことになったら、店を売ろうお父さん」

 母が言った言葉に驚いてしまった。

 この店は両親が大切にしてきた店だ。

 周りの店が閉まってく中でも、代々受け継いできた店で来てくれる常連がいるからと守り続けてきた。

 昔は大晦日の日に店の手伝いに駆り出されて嫌だったが、今では楽しみにしているイベントだったりする。

 店を売ってお金を工面しなければいけない程、うちは経済的に厳しかったのだ。

 私は大学に合格した時に、当然奨学金を利用して通おうと思っていた。
 しかし、両親は子供の為にお金を出すのが親の役目だと言ってくれて、学費を全額出してくれた。

 そこまでしてもらっていたのに、大学に入ってから私はまともに勉強をしていない。
 私は、何をやっていたのだろう。

「母さん、賠償金とかの話は刑事じゃなく民事なんじゃないのか?」
 父も目から涙をこぼしている。
 父が泣くのを初めてみた。

「そんなの、私、頭悪いから分からないよ⋯⋯」
 母が声を震わせて、顔を覆いながら泣いている。

「俺もこんなこと初めてだからわかんないけど、藍子がやってしまったことの責任は親として取るべきだ。藍子を育てたのは俺たちなんだから」

「ごめんなさい。私がおかしかった。本当にバカだった」

 私は2人の会話を聞いていて、耐えられなくなった。

 私は両親に「勉強をしろ」と言われたことは一度もない。

 両親が私を褒めるときは、私が人に親切にした時だった。

 彼らは私に親切で優しい子に育って欲しかったのだ。

 しっかり愛情をかけて育てて貰ったのに、どうして道を踏み外してしまったのか。

 私ほど親ガチャに成功している人間はいないのに、どうして人を羨んでしまったのか。

 木嶋アオのブログを見て、本当は自分が彼女だったら嫌だなと思っていた。
 彼女は、大学に入るまで親の都合で様々な国を連れ回されている。

 旅行でも行きたくないような危険な国に、平気で5年くらい住んでいたりする。

 彼女の境遇に同情していたのに、彼女の羨ましい部分ばかり都合よく掻い摘んで妬んでしまった。

 両親の育て方が悪かったんじゃなくて、私がバカだっただけだ。

「本当にバカだった。本当に、私が全部悪いの。一生謝るから、泣かないで」

 親を泣かせるような子になりたくなかった。

 自慢の娘になりたかったのに、私は間違ってしまった。