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 この世界では、男は皆、成長過程で『獣化』という病に悩まされる。
 一方、女はランクの差こそありはするものの、全員がもれなく聖女であり、獣化を治す力を持っている。

 獣化した男は、放置すればやがて理性をなくし本物の獣になってしまう――その病ともいうべき症状を治すのが、若い女たちである。
 聖女たちは生まれもった獣紋を使い、愛する男に祈りをささげることで、相手を獣化から救う。
 恩を受けた男たちは、祈りをささげてくれた聖女に対し、生涯尽くすことで恩を返す。
 一度結ばれた男女は離れることなく、死ぬまでお互いを尊重し、愛しあう(つがい)となる。
 
 これは神話の時代から、「愛の物語」として広く人々に推奨されてきた。 
 番の神、猫神リムと竜神グランディスを主神とする、獣人の王国――リムディア。
 建国より千五百年。生活様式の変化が多様化するなかでも、獣化に苦しむ男たちは、依然として聖女の力を欲していた。