「矢沢センパイ」
放課後誰もいない廊下で、背後から俺の名前を呼ぶ声がした。
その声は、重低音だけど聞き取りやすい、色気のある、いわゆるイケボだった。
呼ばれた瞬間、誰の声か分かる。
俺の一個下で後輩の真島だ。
後ろを振り返ると、俺よりも身長が大きく黒髪で、メガネをかけている。そして、灰色のカーディガンをゆったりと羽織った男子生徒が立っていた。
そう、この男子生徒が真島だ。
「真島、一緒に帰ろうか!」
真島の目を見た瞬間、俺の頬は緩んでいて、にっこりと笑っていた。
俺は、最近真島に懐かれている。
正直、最初は怖かったけど、本当は優しいヤツで、今では俺の大切な後輩だ。
真島は、コクッと頷いて、ゆっくりと俺の方へ歩いてくる。
口数が少なくてクールな、俺とは真反対の性格だ。
「センパイは俺と帰って楽しい…?」
なにやら不安そうに俺の顔を見つめてくる。
てか、コイツの顔綺麗なんだよな。男の俺でも、ずっと見ていたら惚れてしまいそうな顔立ちだ。
「楽しいよ、てかお前の顔綺麗だよな」
「ずっと見てたら、本当に惚れそう」
俺もじっと顔を見つめてやる。
「惚れてもいいよ?」
意外すぎる回答に俺は驚いた。
出会った時はクールで、そっけないイメージがあったから、冗談を言われると驚く。
「冗談だよ……って!わあっ!」
隣を歩く真島から、急にハグをされた。
ハグ……?!
俺の顔が一瞬にして熱くなる。
今、ものすごく心臓がドキドキとなっている。
「これで、惚れた?」
俺は驚いたあまり、その場で動けなくなってしまった。
「離せよっ……」
俺の方がセンパイなのに、なんでハグされてるんだ。
でも、真島とのハグは嫌ではなかった、そして、心地よさまで感じてきた。
「あはは、センパイの反応カワイイ」
俺の真っ赤になった顔をじっと見つめられて、おかしそうに笑う真島は、いつもより意地悪だった。
「真島のバカ!」
俺は、反射的に顔を背けてバカな真島から、すぐに離れた。
ハグから解放された俺は、頬を膨らましなが、先を歩く。
外は夕陽に照らされていて、空がオレンジ色に輝いていた。
最近は、寒くなってきて日が沈むのも早くなってきた。
「今度変なことしたら、ジュース一個奢りだからな!」
俺は、少し拗ねながら真島にそう言いつけた。
「別に、俺変なことしてないよ?」
メガネ越しに見える真っ黒な瞳に、吸い込まれそうになり、すぐに顔を背ける。
「じゃあさ、ジュース奢ったら変なことしていいの?」
また俺とバカな真島との距離が近くなる。
「ダメ、絶対にダメ……!」
俺は断固拒否をして、軽く睨みつけ、真島から距離を取る。
本当に何を考えているかわからない。
「センパイ、明日の放課後、暇?」
真島は首を傾げながら俺に問いかけてくる。
急に話題を変えられて驚いた。
「明日?暇だけど…?」
記憶を辿ったが、特に予定はなかったはずだ。
「じゃあ、俺の教室来て」
「話したいことあるからさ」
話したいことってなんだろう。
「わかった、放課後に真島の教室な」
真島は、コクッと頷いた。
「じゃあ、また明日な」
分かれ道を別々に通って帰るため、真島とはお別れだ。
「センパイ、さよなら」
真島は、軽く手を振ってくれた。
俺も、全力で手を振って別れる。
それが、最近の俺らのルーティーンだ。
「真島!授業、お疲れ様!」
真島の教室については、ドアを勢いよく開けた。
でも、真島は、自分の席にうつ伏せで寝ている。
机の上には、メガネが置いてあった。
俺はそっと近づいた。
「真島!起きて?」
俺は、真島の背中をトントンと、優しく叩く。
「起きてる……」
あくびをしながら、真島が顔を上げる。
メガネを外している真島を見るのは初めてだった。
「メガネ、外してるところ初めて見たかも」
昨日のこともあり、あまり目を見つめたくない。
本当に惚れてしまう。
俺は、真島の前の席に後ろ向きで座った。
「そう言えば、なんで真島の教室に来て欲しかったんだ?」
ふと、疑問に思ったことを、本人に投げつける。
真島は、メガネをかけて、俺の顔をじっくり見る。
「センパイに話したいことがあってさ」
話したいこと?なんだろう。
俺の心に疑問が浮かび上がってくる。
「ん?なんかあった?」
真島の表情がどんどんと、曇っていく。
「大丈夫か?調子悪い?」
「いや、違う……」
首を横に振り、否定をされる。
沈黙の時間がなんだか、気まずい。
教室にある時計の秒針が、やけにうるさく感じる。
「センパイさ、好きな人っているの…?」
随分と、大胆な質問に俺は驚いた。
「好きな人……?」
すぐに、パッと思いつかない。
俺は、初恋もしたことがないから、鈍感なのだろうか。
「いないの?」
俺の瞳を覗き込むようにして見つめてくる。
「…いないと……思う」
真剣そうな眼差しに、俺が緊張してしまい、声が震える。
「そっか、じゃあさ、俺のこと好きになってよ」
え……?
どう言う意味だろうか。
恋愛経験ゼロの俺には、よくわからない。
でも、顔が熱くなる。
「ど…どう言うこと……?」
俺は、戸惑いながらもそう問いかける。
「だから、俺に惚れて欲しいってこと」
冗談を言っているようには見えない。
だけど、なんで惚れて欲しいんだ……?
「センパイが俺に惚れてくれれば、両思いになるから……」
「だから、俺に惚れて」
真島の声は、今までに聞いたことがないくらい、震えていて、小さな声だった。
両思い……?でも、真島が俺のことを好きになるはずがない。
「真島はさ……俺のこと好きなの………?」
確認をしたいため、一度聞くことにした。
その確認でさえ、俺の声も震えていた。
そして、顔も真っ赤になっているだろう。
耳の先まで、真っ赤で情けない。
俺はやや下を向きながら話を聞く。
「好き……」
えっ…………。
俺の中の時間が止まった。
真島が、俺のことが好き…?
俺の心はこんがらがって、戸惑いを隠せない。
「嘘……だろ…?」
嘘と言って欲しい、でも、言ってほしくない。
「嘘じゃない、センパイのことが好き」
「出会った時から、好きだった」
「でも、ずっと言えなくて」
真島の表情は、今までに見たことがないくらい、真剣で、緊張していた。
「本当は、ずっと隠すつもりだった」
「でも、昨日ハグをしてわかった」
メガネ越しに見える瞳は、ゆらゆらと揺れていて、少し涙ぐんでいた。
「やっぱりセンパイが好きだって」
やばい……俺の顔、超熱い。
俺の手も、真島の手も震えてる。
「あはは、付き合いたいなんて、俺のワガママだよね」
俺と?付き合いたい……?
「はぁ……ごめんね、本当は言うつもりじゃなかった」
真島も、ゆっくりと俯く。
「俺…俺は……」
やばい…緊張して、声が出ない。
「つ…….付き合っても………いい」
心臓が痛いくらい、ドキドキとなっている。
その瞬間、真島の頬から、一滴の涙が垂れてきた。
「本当に……?」
俺を見つめる、真島の瞳は真っ直ぐだった。
俺は声が出せず、頷くだけしかできなかった。
「センパイ、好きだよ」
その言葉を言った瞬間に、俺の唇を奪われた。
俺の右頬に、真島の左に触れられる。
え……嘘、キス………?!
俺は、人生初めてのキスをした。初めてのキスは、これまで食べてきたチョコレートや、砂糖よりも甘く感じた。
「これからも、よろしくね。矢沢センパイ」
放課後誰もいない廊下で、背後から俺の名前を呼ぶ声がした。
その声は、重低音だけど聞き取りやすい、色気のある、いわゆるイケボだった。
呼ばれた瞬間、誰の声か分かる。
俺の一個下で後輩の真島だ。
後ろを振り返ると、俺よりも身長が大きく黒髪で、メガネをかけている。そして、灰色のカーディガンをゆったりと羽織った男子生徒が立っていた。
そう、この男子生徒が真島だ。
「真島、一緒に帰ろうか!」
真島の目を見た瞬間、俺の頬は緩んでいて、にっこりと笑っていた。
俺は、最近真島に懐かれている。
正直、最初は怖かったけど、本当は優しいヤツで、今では俺の大切な後輩だ。
真島は、コクッと頷いて、ゆっくりと俺の方へ歩いてくる。
口数が少なくてクールな、俺とは真反対の性格だ。
「センパイは俺と帰って楽しい…?」
なにやら不安そうに俺の顔を見つめてくる。
てか、コイツの顔綺麗なんだよな。男の俺でも、ずっと見ていたら惚れてしまいそうな顔立ちだ。
「楽しいよ、てかお前の顔綺麗だよな」
「ずっと見てたら、本当に惚れそう」
俺もじっと顔を見つめてやる。
「惚れてもいいよ?」
意外すぎる回答に俺は驚いた。
出会った時はクールで、そっけないイメージがあったから、冗談を言われると驚く。
「冗談だよ……って!わあっ!」
隣を歩く真島から、急にハグをされた。
ハグ……?!
俺の顔が一瞬にして熱くなる。
今、ものすごく心臓がドキドキとなっている。
「これで、惚れた?」
俺は驚いたあまり、その場で動けなくなってしまった。
「離せよっ……」
俺の方がセンパイなのに、なんでハグされてるんだ。
でも、真島とのハグは嫌ではなかった、そして、心地よさまで感じてきた。
「あはは、センパイの反応カワイイ」
俺の真っ赤になった顔をじっと見つめられて、おかしそうに笑う真島は、いつもより意地悪だった。
「真島のバカ!」
俺は、反射的に顔を背けてバカな真島から、すぐに離れた。
ハグから解放された俺は、頬を膨らましなが、先を歩く。
外は夕陽に照らされていて、空がオレンジ色に輝いていた。
最近は、寒くなってきて日が沈むのも早くなってきた。
「今度変なことしたら、ジュース一個奢りだからな!」
俺は、少し拗ねながら真島にそう言いつけた。
「別に、俺変なことしてないよ?」
メガネ越しに見える真っ黒な瞳に、吸い込まれそうになり、すぐに顔を背ける。
「じゃあさ、ジュース奢ったら変なことしていいの?」
また俺とバカな真島との距離が近くなる。
「ダメ、絶対にダメ……!」
俺は断固拒否をして、軽く睨みつけ、真島から距離を取る。
本当に何を考えているかわからない。
「センパイ、明日の放課後、暇?」
真島は首を傾げながら俺に問いかけてくる。
急に話題を変えられて驚いた。
「明日?暇だけど…?」
記憶を辿ったが、特に予定はなかったはずだ。
「じゃあ、俺の教室来て」
「話したいことあるからさ」
話したいことってなんだろう。
「わかった、放課後に真島の教室な」
真島は、コクッと頷いた。
「じゃあ、また明日な」
分かれ道を別々に通って帰るため、真島とはお別れだ。
「センパイ、さよなら」
真島は、軽く手を振ってくれた。
俺も、全力で手を振って別れる。
それが、最近の俺らのルーティーンだ。
「真島!授業、お疲れ様!」
真島の教室については、ドアを勢いよく開けた。
でも、真島は、自分の席にうつ伏せで寝ている。
机の上には、メガネが置いてあった。
俺はそっと近づいた。
「真島!起きて?」
俺は、真島の背中をトントンと、優しく叩く。
「起きてる……」
あくびをしながら、真島が顔を上げる。
メガネを外している真島を見るのは初めてだった。
「メガネ、外してるところ初めて見たかも」
昨日のこともあり、あまり目を見つめたくない。
本当に惚れてしまう。
俺は、真島の前の席に後ろ向きで座った。
「そう言えば、なんで真島の教室に来て欲しかったんだ?」
ふと、疑問に思ったことを、本人に投げつける。
真島は、メガネをかけて、俺の顔をじっくり見る。
「センパイに話したいことがあってさ」
話したいこと?なんだろう。
俺の心に疑問が浮かび上がってくる。
「ん?なんかあった?」
真島の表情がどんどんと、曇っていく。
「大丈夫か?調子悪い?」
「いや、違う……」
首を横に振り、否定をされる。
沈黙の時間がなんだか、気まずい。
教室にある時計の秒針が、やけにうるさく感じる。
「センパイさ、好きな人っているの…?」
随分と、大胆な質問に俺は驚いた。
「好きな人……?」
すぐに、パッと思いつかない。
俺は、初恋もしたことがないから、鈍感なのだろうか。
「いないの?」
俺の瞳を覗き込むようにして見つめてくる。
「…いないと……思う」
真剣そうな眼差しに、俺が緊張してしまい、声が震える。
「そっか、じゃあさ、俺のこと好きになってよ」
え……?
どう言う意味だろうか。
恋愛経験ゼロの俺には、よくわからない。
でも、顔が熱くなる。
「ど…どう言うこと……?」
俺は、戸惑いながらもそう問いかける。
「だから、俺に惚れて欲しいってこと」
冗談を言っているようには見えない。
だけど、なんで惚れて欲しいんだ……?
「センパイが俺に惚れてくれれば、両思いになるから……」
「だから、俺に惚れて」
真島の声は、今までに聞いたことがないくらい、震えていて、小さな声だった。
両思い……?でも、真島が俺のことを好きになるはずがない。
「真島はさ……俺のこと好きなの………?」
確認をしたいため、一度聞くことにした。
その確認でさえ、俺の声も震えていた。
そして、顔も真っ赤になっているだろう。
耳の先まで、真っ赤で情けない。
俺はやや下を向きながら話を聞く。
「好き……」
えっ…………。
俺の中の時間が止まった。
真島が、俺のことが好き…?
俺の心はこんがらがって、戸惑いを隠せない。
「嘘……だろ…?」
嘘と言って欲しい、でも、言ってほしくない。
「嘘じゃない、センパイのことが好き」
「出会った時から、好きだった」
「でも、ずっと言えなくて」
真島の表情は、今までに見たことがないくらい、真剣で、緊張していた。
「本当は、ずっと隠すつもりだった」
「でも、昨日ハグをしてわかった」
メガネ越しに見える瞳は、ゆらゆらと揺れていて、少し涙ぐんでいた。
「やっぱりセンパイが好きだって」
やばい……俺の顔、超熱い。
俺の手も、真島の手も震えてる。
「あはは、付き合いたいなんて、俺のワガママだよね」
俺と?付き合いたい……?
「はぁ……ごめんね、本当は言うつもりじゃなかった」
真島も、ゆっくりと俯く。
「俺…俺は……」
やばい…緊張して、声が出ない。
「つ…….付き合っても………いい」
心臓が痛いくらい、ドキドキとなっている。
その瞬間、真島の頬から、一滴の涙が垂れてきた。
「本当に……?」
俺を見つめる、真島の瞳は真っ直ぐだった。
俺は声が出せず、頷くだけしかできなかった。
「センパイ、好きだよ」
その言葉を言った瞬間に、俺の唇を奪われた。
俺の右頬に、真島の左に触れられる。
え……嘘、キス………?!
俺は、人生初めてのキスをした。初めてのキスは、これまで食べてきたチョコレートや、砂糖よりも甘く感じた。
「これからも、よろしくね。矢沢センパイ」