「もっと攻めていけばいいのに」
「だれに攻めるって言うんですか」
「あたし」
「いやです」
買い物を終えてマンションに戻る道すがら、ふと、モカはあることに気がついた。
「お母さんと、こうやって買い物したこと一度もなかったな」
「一度も?」
「はい。同じペースで買い物をしたことがないなって。いつもお母さんは買うものが決まっていて、わたしはそれに従うだけで」
「ああ分かるかも。自分が正しいと思って周りを見下すのがデフォルトな人って、ペース合わせないよね」
けえ子さんは、モカが上手く言えなかったことを的確な言葉に置き換えた。どうしてけえ子さんにはお見通しなんだろう、やっぱり超能力か。けれど心を読まれた気はしない。まるでけえ子さん自身の体験から出たような言葉に、モカには聞こえた。
そう。モカの母は、モカをいつも自分の支配下に置いてきた。悪意はないのだ。母の曇りなき正義がそうさせている。母は、いつも正しさという名の暴力で父とモカを押さえつけていた。
正論や正義に名前を変えながら、その目は父とモカを見下す。父はそれに耐え切れなくなって家族を捨てた。モカも連れて行って欲しかったけれど、残念ながら親権はまごうことなく母だった。
父が出て行ってからというもの、母はますますモカを支配するようになっていった。それもこれも娘のため。母性という名の免罪符が、母を化け物にしていく。
集合体はとっくにその形を失っていたのだけれど、化け物になった母の目には、もう何も見えていなかったのだ。
「けえ子さん」
「ん?」
自販機の新商品をチラ見したり顔見知りに手を上げたりしながら、けえ子さんがモカのペースに合わせて歩いてくれているのが分かる。
「この仕事手伝ったらパンツ画像返してくれるんですよね?」
「返す返す。言ったことは守るわよ」
「……上手くやれる自信はないですけど、一回だけでいいならやります」
「お、やる気になってくれた?」
「あんな恥ずかしい画像が残ってたら、死に切れませんもん」
「そうよねえ。あれが万が一ネットに上がったら大変よね」
「……念写したのはけえ子さんでしょ」
「てへ」
「だれに攻めるって言うんですか」
「あたし」
「いやです」
買い物を終えてマンションに戻る道すがら、ふと、モカはあることに気がついた。
「お母さんと、こうやって買い物したこと一度もなかったな」
「一度も?」
「はい。同じペースで買い物をしたことがないなって。いつもお母さんは買うものが決まっていて、わたしはそれに従うだけで」
「ああ分かるかも。自分が正しいと思って周りを見下すのがデフォルトな人って、ペース合わせないよね」
けえ子さんは、モカが上手く言えなかったことを的確な言葉に置き換えた。どうしてけえ子さんにはお見通しなんだろう、やっぱり超能力か。けれど心を読まれた気はしない。まるでけえ子さん自身の体験から出たような言葉に、モカには聞こえた。
そう。モカの母は、モカをいつも自分の支配下に置いてきた。悪意はないのだ。母の曇りなき正義がそうさせている。母は、いつも正しさという名の暴力で父とモカを押さえつけていた。
正論や正義に名前を変えながら、その目は父とモカを見下す。父はそれに耐え切れなくなって家族を捨てた。モカも連れて行って欲しかったけれど、残念ながら親権はまごうことなく母だった。
父が出て行ってからというもの、母はますますモカを支配するようになっていった。それもこれも娘のため。母性という名の免罪符が、母を化け物にしていく。
集合体はとっくにその形を失っていたのだけれど、化け物になった母の目には、もう何も見えていなかったのだ。
「けえ子さん」
「ん?」
自販機の新商品をチラ見したり顔見知りに手を上げたりしながら、けえ子さんがモカのペースに合わせて歩いてくれているのが分かる。
「この仕事手伝ったらパンツ画像返してくれるんですよね?」
「返す返す。言ったことは守るわよ」
「……上手くやれる自信はないですけど、一回だけでいいならやります」
「お、やる気になってくれた?」
「あんな恥ずかしい画像が残ってたら、死に切れませんもん」
「そうよねえ。あれが万が一ネットに上がったら大変よね」
「……念写したのはけえ子さんでしょ」
「てへ」