「いいわよ。ラインが透けないから」
「やめときます」
 けえ子さんの選ぶパンツはどれも何だかアダルトな香りがして、モカは引いている。そもそも自分は自殺するつもりだったのだ。それをけえ子さんに妙な形で阻止されて、そのまま振り回されているこの状況が度し難い。
 モカは、このパンツもいいわねえ、色違いあるかしら、と物色しているけえ子さんを見つめながら、この人は一体何者なんだろうと考えていた。
 けえ子さんの不思議な力は、何となくだけれど受け入れられるような気はする。実際、物凄いスピードで屋上から落ちていた筈なのに、怪我ひとつなくけえ子さんの家に運ばれているなんて、確かにあり得ない。ビール缶を潰したのも、ふらついたモカを移動させたのもそうだ。
 何より、けえ子さんならサイキックな力を持っていても不思議ではない、と思わせる何かがけえ子さんにはあった。夜の街、アダルトなパンツ、サイキック、けえ子。モカの世界にはひとつもなかった要素だけれど、妙にしっくりくるのだ。

「あ、モカちゃん。来たわよ、仕事が」
 キャッキャしていたけえ子さんの顔つきが少しだけ変わり、モカの背後に視線を送る。
「え、何が?」
 何も考えずに振り向こうとしたモカを、けえ子さんは腕を伸ばして制した。
「動かないでね。その鏡越しに見ていて。化粧品コーナーに、モカちゃんと同い年くらいの女の子がいるでしょ。あの子に接触してくる男がいる筈なの。だけどどこで接触するのか尻尾が掴めなくて、ここ数日探しててね。ようやくこのディスカウントストアじゃないかって情報が入ったのよ」
「え、え、けえ子さん、ホステス……なんですよね? 探偵みたいなこともしてるんですか?」
「探偵なんて大げさなものじゃないの、頼まれてもいないし、謝礼なんて勿論ない。そもそも被害届も出されないような案件。居場所をなくして夜の街をうろついている子にね、美味い話を持ち掛けて、ドラッグやセックスに溺れさせる輩がいるのよ。あたしと、あたしのお店の子たちは、そういう子たちが深みに嵌まらないようにこっそり手を回しているってわけ」
「え、だけど、その助けた子は、けえ子さんたちの存在を」
「知らないで終わることがほとんどね。余計なことしないでよって逆ギレされたこともあるわ」
「そんな。感謝されないなら、やってる意味なくないですか?」