続けざまに無理な体勢を取っていたせいか、モカの身体はぐらりと揺れた。見えない手に支えられてふわりと宙に浮き、そのまま優しくソファーに座らされる。
「モカちゃんに手伝ってほしい仕事があるのよ。それを手伝ってくれたら、このパンツ画像は返してあげる」
 けえ子さんはそう言うと、にっこりと微笑みを浮かべた。

「わたしの情報、どこまで読み取ったんですか」
 アイスティーを炭酸で割った飲み物は、モカの沸騰した頭を少しだけ冷ましてくれた。
 こくりこくりとアイスティーソーダを飲むモカを見ながら、けえ子さんは四本目のビールを空けている。
「テレパシーは準備が必要だから、モカちゃんの頭の中は読んでないわよ。制服に触れた時、偶然読み取っただけ。モカのスカートにアイロンを掛けないとみっともないっていう残留思念が強くて、モカちゃんて名前なんだって分かった」
「みっともない……」
「うん。だれかな、女の人の思念」
「……お母さんだ」
「そっか。お母さんがアイロン掛けてた時の思念なんだね。強い思念が残ってたよ」
「……いつもそうなんです。モカがちゃんとしていないと、お母さんが怒られるでしょって」
「あーなるほどね」
 けえ子さんは四本目のビールを飲み干すと、空き缶に触れることなくぐしゃりとそれを握り潰し、ゴミ箱にシュートさせた。
「パンツも女子高生にしちゃ、可愛げのない真面目なパンツだもんね。普段は品行方正で通してるのかなと思ったわ」
「パンツから推理しないで下さい!」
「ごめんごめん」
 アハハと笑うと、けえ子さんは「いいこと思いついた」と目を輝かせた。
「モカちゃん歩けそう? 今から買い物行かない? 可愛いパンツ買ったげる。ついでに仕事のやり方も教えるわ」
「その、何ですか、さっきから仕事って。わたしバイトもしたことないし、仕事なんて言われても」
「巡回するだけの簡単な仕事よ。あたしみたいないかにも夜の女です、みたいなのに近寄られても警戒されちゃうからね」
「わたしも警戒してますけど……けえ子さんに」
「え、うそショックぅ」
「白々しくないですか……」
 けえ子さんに芝居がかった調子で返されたら、なんだか言い返す気力も失った。モカは溜息をついてから言った。
「元気にはなりました。なんか分からないけどとりあえず買い物行きます。で、イチから説明して下さい」